ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

新刊紹介X線結晶構造解析入門―強度測定からCIF投稿まで―大場茂・植草秀裕著㈱化学同人(2014)定価3,000円+税ISBN 978-4-7598-1575-7この本は結晶学の専門家ではなく, X線構造解析を分析手段とする学生や研究者を対象として書かれたものである.低分子の単結晶構造解析は,測定装置や解析ソフトの自動化により,結晶さえできればその立体構造を見ることができるようになりつつある.しかし,まえがきにも書かれているとおり,現在ではいまだデータの妥当性や結果を正しく解釈できていないと,トラブルの対処ができない場合がある.本の章立てとしては,前半は構造解析の基礎知識,後半は実践編となっているが,全体にわたって著者ら自身の研究だけでなく,多くの相談事例も加わった多くの経験事例が挙げられており,まさに現場で役立つ本となっている.私自身一応結晶学の専門家であるので, X線構造解析を分析手段として扱う化学系大学院生を対象とした講義の教科書ないし参考書として良いのではないか,あるいは結晶学が専門ではない研究者に薦められるのではと思った.以下の感想は,結晶学が専門でない学生,研究者がどう思うか、という視点で書いた.まず, 1章から3章まではいわゆるX線構造解析の基礎的な解説となり,避けては通れない多くの式が並んでいる.結晶学の教科書は,どうしても基礎のあとに実践という形を取らざるを得ず,最初から読もうとして基礎編で挫折してしまうというのはよくある話で,大場先生もまえがきで“適当に飛ばして読んでほしい”と書かれている.私も適当に飛ばして読んでしまったが,何かにつけ実際の測定ではどうなるのか,解析結果ではどうなるのかという事例が添えられており,逆に細かい式の導出は省かれているので,これまで挫折してしまった人でもこれなら読み進められるのではと思った.4章では単結晶育成と測定の用意が紹介されている.化学合成をする研究室では,似た性質の分子を取り扱うことが多いだろうから,その研究室での結晶化のノウハウのようなものがあり,また測定の用意も機器によっては異なるので,この章に関してはあまり実践的ではないようにも思う.しかし,結晶育成法,結晶の選び方,双晶の理屈を知っておくということは重要であろう.5章では実際の回折強度測定の流れが示してある.どういうことをやっているのかというのは,もちろん重要ではあるのだが,装置は選べないことが多く,またデフォルトで測定することが多いので,ここもあまり実践的ではないかもしれない.6章の構造解析の実際の流れ, 7章の構造解析の落とし穴は,少し結晶学的で難しいと思われるかもしれない.しかしながら,実際に論文投稿の場ではCIFのチェックで空間群の間違いを指摘されたりもするので,そうなったら腹をくくってここを読むか,近所の結晶学者に相談するか,であろう.8章のCIF, 9章のトラブルシューティングは,これぞ困ったときにここを見る,という入門者にとって,とてもありがたい章だと思う. 8章はもちろんAlertの回避法であり, 9章は測定から解析,結果の評価などで困った事例と対処法について書かれている.10章ではSHELXの使い方が紹介されている.実際にはディスオーダー構造の指定の仕方が解説されており,初心者にはちょっと難しいだろうと思うが,本章では概略を説明するだけにとどめている.ここまで,入門者の視点で書いてきたが,私自身にとっては付録(空間群の決定や軸変換など),見返しにある付表(主な結合長など)が便利かも,と思っている.もちろん探せば調べられるものだが,ちょっと見るのに便利そうである.以上,各章について私が思うところを勝手に述べさせていただいたが,今現在読む,現場で役立つ実践書であると思う.(大阪市立大学大学院理学研究科宮原郁子)422日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)