ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

談話室来ましたが,これぞモントリオール,とわかった瞬間でした.私たちはコーヒーの後,早めに会場を去りましたが,ジャズとダンスは中入りを挟んでかなり夜遅くまで続いたとのことを後で聞き,改めて驚いた次第です.IUCr2014参加報告高エネルギー加速器研究機構石川喜久国際結晶年である2014年8月5日~12日にカナダのモントリオールにて国際結晶学会IUCr23が開催された.学会地であるモントリオールはカナダ東部のケベック州最大の都市でトロントに次ぐ第2の都市とされる.公用語がフランス語のため,道路標識や店の看板など多くは英語の記載がないのが新鮮に感じられた.市街に多くのビルが立ち並ぶなか,教会や美術館などがうまく溶け込んでいる.地図を持たずに気ままに散策をするとビルの谷間に緑豊かな公園があったり,石畳の小道につながったりと小さな発見を楽しむことができた.気候は日差しが強かったが気温は25℃前後で乾燥しており,北海道に近い印象を受けた.会議は8月5日のWorkshop WK-01 Introduction toAperiodic Crystalsから参加した.会場はモントリオール国際会議場で初日は入り口がわからず建屋を一周してから臨んだ.ほど良い運動は時差ボケ対策に最適である.Smaalen氏の講演でBayMEMやSuperflipを用いたRb 2ZnCl 4への適用例と非調和温度因子との検討などはModulated Structureに対する構造解析の感覚を掴むうえでよい勉強になった.また,最近のトピックスとしてCrOClの圧力誘起型incommensurate転移などは内容として興味深く,同系統の物質ではどうなるか気になった.Welcome reception後の講演は8月6日のMS03 MaximumEntropy in Crystallographyから参加し,西堀氏による放射光によるMEM解析や静電ポテンシャルを用いた電荷秩序化についての報告が勉強になった.材料科学として参考になったのが, MS23 In-situ Studies of ElectrochemicalConversion and StorageのSharma氏によるANSTO WONBATを用いたLi-ion電池の報告である.実際の測定環境をわかりやすく図解しており,充放電におけるin-situ測定手法の紹介に加えて時間分割スケールや分解能など“どこまで見えるか”という点が明快で参考になった.また, 8月7日のKeynoteでEvans氏による“Put Your Trust in Powder: Negativeand Zero Thermal Expansion Materials”の講演はZrW 2O 8に代表される負の熱膨張について, AM 2O 7やA 2(MO 4)3など多くの系に対してアニメーションを用いた丁寧な紹介で勉強になった.また,格子振動を表現する可視化ソフトウェアが充実しつつあることは参考になった.今回参加した中で最も印象に残った報告は, 8月8日のMS33Symmetry Constraint in Magnetic Structure Determination:Experiment and TheoryにあるVanLeeuewen氏の“Doubleanti-symmetry in magnetic structure”である.近年の磁気空間群に関する研究の流れについては, Litvin氏によるMagnetic Group TablesやBilbao Crystallographic Server,ISOTROPY, Prez-Mato氏による磁気超空間群について総説(doi: 10.1088/0953-8984/24/16/163201)などデータベースが充実してきており,磁気対称性の検討が以前より手頃なものになってきている. Double anti-symmetry(DASG)では,さらにrotation-inversionを加えることにより新たな空間群テーブルを整理する試みである.これにより結晶中の回転変位と磁気構造を統一的な記法により表現できるようになる.総計17803個の空間群分類になるので,高速検索ができるデータベース環境の構築が必須であるが今後の進展が楽しみである.今回のスケジュールは興味のあるテーマが日程全体に振り分けられており,バランスが良かったと思う.どこか一日は観光に使おう,と思ってプログラムを開くと「う~む,これは外せないな」というタイトルが目に入ってくる.MS42 Diffuse Scattering and Partial Disorder in ComplexStructuresではSimmonov氏による3D-?PDFの報告があった.単結晶回折でエリアディテクタを用いた三次元逆空間マッピングが一般化されつつある状況の中で,短距離秩序に対するアプローチは技術面において重要なテーマの1つになると期待される.また,最終日のMS98 X-ray, Muonand Neutron Studies of Magnetic Structure in Materialsでは, Frandsen氏によるMagnetic Pair Distribution Function(mPDF)に対する報告があった.シンプルな系に対する磁気モーメントの配置とPDFのシミュレーションについてわかりやすい紹介であった.磁気局所構造へのアプローチについても装置・解析技術の両面からニーズがあり,今後短期間のうちに身近なものになると考えられる.IUCrに参加したのは2008年の大阪以来となるが,ポスターセッションの印象が以前とは大きく違った.結晶学会におけるポスターセッションは生体物質関係が中心で固体物理,装置開発の順に残りのブースを分け合うイメージでいたが,今回は発表分野に大きな偏りがなく,各分野の最近の流れを俯瞰できる配置になっていた.そのなかでも特に目を引いたのが準結晶分野で,電子線回折画像とともに多くのポスターが見られた.また, X線・中性子回折の手法については実験室・大型施設を問わずCCDやIPを中心としたエリアディテクタによる逆空間マッピングの絵が多く見られるようになった.世界結晶年という記念すべき年にIUCrに参加できたことはとてもよい刺激になった.節目の年であると同時に,新しい手法に向かって挑戦する熱気を十分に感じることができた.自分もまた前進し,発信していこうという気持ちを新たにすることができた.420日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)