ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

IUCr2014参加報告世界結晶年については正直言って少々期待外れでした.IYCrというMSがあったのみでした.コンベンションセンターの入り口付近には近代結晶学の歴史がパネルで紹介されている程度であり, IYCrをお祝いする雰囲気は感じられませんでした.もし,単に私が見過ごしていたのであればご容赦願いたいです.日本でのIYCrの活動が非常に活発なものであるために物足りなさを感じたのかもしれません.後にプログラムを見てわかったことですが,市民公開講座のようなものは大学など別の会場で複数開かれていたようで,一般市民への結晶学の啓蒙というIYCrの本来の目的は達成されていたようで安心しました.私にとっての初日のKeynote Lectureでは, ILLのRodriguez-Carvajalが“Sixty Five Years of Magnetic Structures.: Presentand Future of Magnetic Crystallography”と題して講演しました.私のグループでは最近,構造・磁気相転移を起こす酸化物などを対象としたテーマを扱っていますが,中性子回折を用いた磁気構造解析まではまだ踏み込めていません.そのような素人の私にとって磁気構造解析についてその歴史から紹介されたLectureは興味深かったです.その歴史はOakridgeにおけるMnOの反強磁性構造の解析から始まっていて,その後, 2001年にすべての磁気空間群が整理されたとのことでした.結晶構造と磁気構造とが異なるケースはよくあることですが,非整合な磁気構造をもつ場合は非常に複雑になります.しかし,それらを取り扱えるソフトウェアが開発されていることには驚きました.これは結晶学が数学的なアプローチから大きく発展してきたことを表すものでその素晴らしさを改めて感じました.MS72 Methods, Algorithms and Software for PowderDiffractionは粉末結晶構造解析の手法に関するものでしたが,その中で少し変わった面白い手法が紹介されていました.京都大学のKimuraは,粉末結晶に磁場をかけて結晶格子を決定する方法を紹介しました.水溶液に分散させた粉末結晶に磁場(静的な磁場だけでなく回転磁場も)をかけることにより方位を揃えて,粉末でありながら単結晶のようなX線回折パターンを測定して結晶格子を決定するものでした.これは一見,磁性体にしか適用できないように感じますが,実は反磁性を利用しているためどのような物質にも適用可能とのことでした.粉末結晶構造解析の最初の難関であるindexingは近年のソフトウェアの進歩により徐々に容易になってきてはいます.上記の方法は特別な実験装置が必要ではありますが,このような実験的なindexingの手法も大変有用であると感じました.いくつかの発表を聞いていて感じたことですが, PDF(Pair Distribution Function)解析を用いた研究発表が結構増えたように感じました.有機物やタンパク質の結晶を対象とされている方々には馴染みのない手法でありましょうが,この手法はBragg反射だけでなくバックグラウンドにある散漫散乱のような散乱もすべて含めて解析し,原子対の日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)相関を調べることができます.これは,結晶はもちろん,非晶質も取り扱うことができます. MS55 Pair DistributionFunctions: Measurement and InterpretationではPDFのさまざまな物質への応用が紹介されました. Dippelは“Realtime study of wet-chemical reaction dynamics at beamlineP02.1@PETRA III”というタイトルで, PETRA IIIにおけるPDF解析用データ測定の条件や装置のスペックについて示し,応用例として安定化ジルコニアナノ粒子の化学反応を時間分解PDF解析で追跡した結果を紹介しました.そして,反応に伴うZr原子, O原子の原子間距離の変化から反応機構を考察し,合成条件の最適化ができることを提案しました.また, Kimは“Understanding the propertiesof energy materials from their local structure”と題して,金属水素化物やリチウムイオン電池の電極材料の局所構造を, SPring-8の放射光とJ-PARCのパルス中性子線の両方の回折データでPDF解析して比較しました. PDF解析はhigh-Q領域のデータを利用するため短波長量子ビームでの測定が必要となります.会場でたまたま放射光施設の研究員と話したところ,日本はPDFに特化したビームラインがほとんどなく,欧米の放射光施設に後れをとっているとのことでした. PDF解析は原理的に複雑な構造や単位格子の大きな構造の解析は苦手であると思われますが,これだけ普及しているのは,結晶と同じように非結晶や構造の乱れがある系が取り扱えるため化学反応や結晶成長のような局所構造の時間変化を調べるのに適しているからであると考えられます.この手法は,従来のBragg反射を用いた結晶構造解析と合わせて利用すれば,非常に有用なツールとなると考えられます.今後日本においてもポピュラーになっていくことを期待したいです.最後にBanquetのことを紹介しておきます. Banquetはセッション会場に使われていた大きなホールで行われました.宴はかなり時間が経ってから始まりましたが,コース料理がメインに入る頃,ジャズの演奏が始まりました.テンポ良い演奏が盛り上がるに連れて会場の中央には人集りができてきました.そして,ダンスが始まりました.私はモントリオールの街のこともろくに知らずにやってBanquetのワンシーン419