ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

カーボンナノチューブの筒内平滑曲面:炭素性分子ベアリングの構造化学いカーボンナノチューブ内部にも存在することを示唆するものと考えている.比較対象としてJastiらが報告した[10]CPP⊃C 60の結晶構造をHirshfeld表面により解析すると,こちらには芳香環の接続する部分に変曲点の節が観察される(図4f).[4]CC⊃C 60の会合が円筒と球体の曲面間での分子認識であるのに対し,[10]CPP⊃C 60の会合がポリゴン同士の平面間での分子認識であることを示している.“shape index”による色分けは,表面の凹凸を示している(図4c).[4]CC⊃C 60の表面には,凸面と平坦面が見受けられる.興味深いことに,平坦面がらせん状に存在し,らせん型カーボンナノチューブ分子の内面には,「ねじ」のようならせん対称をもつ構造が存在することを示唆している.一方,対象となる[10]CPP⊃C 60の表面には異なる色の三角形が組となって存在した(図4g).この三角形の組はπスタック構造に特徴的に現れるものであることが知られており, 10)ポリゴンの平面間での分子認識であることをより確実に示している.“de”による色分けは,表面と接触する原子との間の距離を示す(図4d).[4]CC⊃C 60の近接接触は,[4]CCの炭素原子の下の筒上に均一に分布している.一方で,[10]CPP⊃C 60の近接接触では, CPPの水素原子が目立って見えている(図4h).これは, CPP上の六角形とC 60上の六角形が,互いにずれた(slipped)πスタック構造をとっていることを示している.今回の[4]CC⊃C 60のHirshfeld表面から見いだされた構造的特長は,ピーポッド全般に見られる構造であると考えられる.すなわち,平滑な湾曲π表面同士の分子認識がピーポッドの最大の特徴の1つとなる.3.「くるくる」な動的構造:固体NMR解析平滑なπ湾曲面の組み合わせは,固体状態での分子ベアリングの構造を動的なものとした.固体NMRによる解析により,[4]CC⊃C 60固体内でもC 60が回転していることが見いだされたものである.分子ベアリング[4]CC⊃C 60の粉末試料の固体1 3 C NMRスペクトルを図5に示した.測定は2.5φ×3.5 mmの試料管を用い, 176 MHzの共鳴周波数を用いている.一般に,固体状態では測定対象分子がその存在位置・配向を変えない.このため通常の固体状態物質のNMR測定では,外部磁場に対する分子配向が平均化されないために化学シフト異方性が生じ,その結果,共鳴シグナルは非対称な形状となる.試料管を回転するマジックアングルスピニング(MAS)法はこの化学シフト異方性を除去する常法である.図5に示した[4]CC⊃C 60のスペクトルは,このMAS法を施さない静止条件下で得られたものである. 140 ppmに線幅が狭く対称形状のC 60共鳴シグナルが観測されている.これは,[4]CC⊃C 60は,固体状態においても内部日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)図5[4]CC⊃C 60の静止状態固体1 3 C NMRスペクトル.(Static solid-state 13 C NMR spectra)(a)70℃,半値幅=774 Hz.(b)30℃,半値幅=739 Hz.(c)-30℃,半値幅=863 Hz.のC 60が自由に回転していることを明示している.温度可変測定によって,試料温度を70℃から-30℃まで変えて測定した結果,線幅はほとんど変わらずその半値幅は798±53 Hzであった. C 60がこれらの温度で常に回転していることを示す結果である.-30℃はわれわれの所有する市販装置での下限温度であったが,現在,共同研究により,さらに低温での測定を検討している.4.おわりにわれわれが独自に合成した「有限長カーボンナノチューブ分子」とフラーレンの分子ピーポッドの構造解析から,長いカーボンナノチューブにも共通すると考えられる構造的特長が見えてきた. sp 2炭素曲面同士の会合では,球体と円筒体という構造的相補性が非常に高い分子形状が,高会合力をもたす.さらにカーボンナノチューブ円筒内の内部表面は,「つるつる」な平滑曲面で構成されており,これが内部の回転子の「くるくる」回る動的挙動を可能とする.「微小摩擦」をもつ分子機械が実現されているのである.ごく最近では,回転子には多様な構造をもつフラーレンライブラリが活用できることや, 6)ベアリングと回転子間で,迅速な光誘起電子移動反応が進むこと, 12)さらにはより長い有限長カーボンナノチューブ分子を活用したベアリングを構築可能なこと13)などもわかってきた.今回得られた構造化学的知見は,今後のナノ分子機械として大きく発展すると期待している.謝辞本稿で紹介した研究では,㈱日本電子の西山博士に貴重409