ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

佐藤宗太,磯部寛之子が集積していた.今回の構造解析の最大の難関は, C 60のディスオーダー解析であった.幸い,良質な回折データが得られたことから, C 60部分については,最終的に,それぞれ25%の占有率の4つのディスオーダー構造が最適解となった.図3に,その構造を示した. 4つのC 60はいずれも[4]CCの中心に位置し,チューブ内にすっぽりと収まった構造であった.現時点ではその由来は明確ではないが, C 60頂点上の炭素原子には2つの特異位置があった.対面にある2つの炭素原子が, 4つのディスオーダー構造いずれでも同じ場所に存在したのである(図3a).その結果,この位置での炭素原子の総占有率は100%となり,「ディスオーダーがあっても動かない原子」となっていた.この2つの炭素原子が一軸回転運動での回転軸となっているのかとも考えたが,異方性温度因子は,一軸回転を支持するものではなく(図3b),この想定は否定された.いずれにしても,この結果は結晶内での回転運動に配向性をもたせ得ることを示唆していると考えている.アルキル鎖の入れ子構造に由来したカラム状集積構造は[4]CC⊃C 60でも保たれ,分子ベアリングも結晶内でカラム状に集積した(図3c).この場で回転子の一軸回転を誘起し得るのであれば,結晶内で統一した配向をもつ軸回転が実現できることとなり,今後の検討課題としてきわめて魅力的であると考えている.今回用いた回折データは,いずれも液体窒素温度での結果であるが,分子構造の温度依存性を解析することで,動的構造についての興味深い知見が得られるものと期待している.実際には,昇温条件での回折データは得ているものの,現時点ではその解析ができていない.回転運動が激しくなったことを一因とする激しいディスオーダーに阻まれているものと考えている.2.2「つるつる」な内面:Hirshfeld表面解析最近,結晶内での分子表面の解析手法としてHirshfeldが提唱した手法を発展させ,分子表面やその上での原子接触を視覚的に解析する手法が提唱されている. 10)さらに,この手法を簡便に活用するためのアプリケーション「CrystalExplorer」が無償配布されており, 11)われわれはこの手法を活用することで,分子ベアリング中の[4]CC円筒内面の解析を行った.内包されているC 60のHirshfeld表面(図4a)を「プローブ」とすることで,それと接触した有限長カーボンナノチューブ分子の円筒内面の解析を行ったものである.“curvedness”により色分けしたHirshfeld表面からは,変曲点が存在する場所が確認できる(図4b). Hirshfeld表面の[4]CCに囲まれた領域は,色の変化のない領域が広がっており変曲点が曲面を分断するような「節」が存在しない.この結果は,[4]CC円筒内には滑らかな曲面が存在することを明示している.これと類似した滑らかな曲面が長図4分子ピーポッドのHirshfeld表面解析.(Hirshfeld surfaces of molecular peapods.)[4]CC⊃C 60と[10]CPP⊃C 60を並べ比較している.(a, e)Hirshfeld表面.(b, f)curvedness評価つきHirshfeld表面.(c, g)shape index評価つきHirshfeld表面.(d, h)d e評価つきHirshfeld表面.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.408日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)