ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

杉島正一明らかになっている. 5),6)しかし,反応に必須な還元力を供給するCPRとHOの相互作用様式については, CPR-ヘム-HO複合体の立体構造が不明であったことから,詳細は不明であった.近年,われわれは変異CPR-ヘム-HO-1複合体の立体構造を4.3 A分解能で決定し,その相互作用様式を明らかにした. 7) CPRはHO以外に種々の小胞体に存在するシトクロムP450に還元力を供給するが,本構造はCPRとその還元相手との複合体構造という意味でも初めてのものである.ここでは,複合体構造とその構造から推測されるCPRのダイナミックな構造変化を伴うHOへの電子伝達機構について論ずる.2.変異CPR(?TGEE)-ヘム-HO-1複合体の調製とその性質ラット由来CPR-ヘム-HO-1複合体は不安定な複合体で,共結晶化の努力を10年程度続けたが,良質な複合体結晶を得ることはできなかった.この試行錯誤のなかには,例えば両タンパク質の融合タンパク質の結晶化や化学架橋剤による複合体の安定化なども含まれる.この原因はCPRがopen型とclose型の平衡状態にあることである.ラットCPRの立体構造は1997年にウィスコンシン大のKimらによって最初に報告されたが, 8)その構造はclose型である. close型ではCPRに結合している補因子であるFADとFMNが近接しており, FMNはCPR内部に埋もれている.この構造はNADPH→FAD→FMNというCPR内部の電子伝達には都合が良いが, FMNから他のヘムタンパク質への電子伝達には都合が悪い.それに対して, open型ではFMN結合ドメインとFAD結合ドメインの位置関係が変化し, FMNは溶媒に露出した構造となっている. 9),10)この構造は他のヘムタンパク質と相互作用して,電子伝達を行うのに都合が良いと考えられる.そこで,われわれはopen型が安定化された変異CPR(?TGEE)9)を用いて, HOとの共結晶化に挑戦することにした. ?TGEEはFMN結合ドメインとFAD結合ドメインの間にあるヒンジループの連続した4アミノ酸残基を切除した変異体である. ?TGEEに結合しているFMNをあらかじめ還元しておけば, ?TGEEがシトクロムP450を還元し,反応に必要な還元力を供給できることは報告されていたが,ヘム-HO-1複合体を還元できるのか,また,ヘム-HO-1複合体と安定な複合体を形成するかどうかは不明であったので,結晶化の前に,それらを検討した.その結果,?TGEEは非常に遅いスピードではあるが(野生型の1/360),ヘム-HO-1複合体を還元することができ,ビリベルジン-鉄錯体まで反応を進めることが可能であること,また,ゲルろ過中も解離することのない安定な複合体を形成することがわかった(野生型CPRでは解離する).表面プラズモン共鳴法により, ?TGEEとヘム-HO-1との解離定数を測定したところ,野生型CPRとの解離定数より10~20倍ほど小さい解離定数を示し,より安定な複合体を形成することがわかった.そこで,共結晶化を行ったところ,PEG6000または8000を沈殿剤とする条件でヘムの赤とフラビンの黄色が混ざったオレンジ色の結晶が得られた.3.?TGEE-ヘム-HO-1複合体の結晶構造解析このオレンジ色の結晶について,グリセロールを抗凍結剤として, SPring-8 BL44XUにおいてX線回折実験を行ったところ, 8 A分解能程度の反射が得られた.その後,結晶化条件や抗凍結条件の最適化を行った結果,エチレングリコールを抗凍結剤とする条件で, 4.3 A分解能までの回折データを取得することができた.この回折データを用いて, MOLREP 11)を用いた分子置換法によって,構造決定に成功した.複合体では?TGEEのFMN結合ドメインとFAD結合ドメインの配置がどのようになっているか不明であったため,最も分子量の大きいFAD結合ドメインをサーチモデルとして, FAD結合ドメインの位置を決定した後に,ヘム-HO-1複合体とFMN結合ドメインを順次サーチモデルとして構造決定を行った.精密化はNCSrestraintsや二次構造に関するrestraintsなどを加えたjellybody refinementをREFMAC5 12)を用いて行い, R=22.2%,freeR=25.6%まで精密化した.?TGEE-ヘム-HO-1複合体は非対称単位中に二分子存在し,複合体中の?TGEEの構造は, ?TGEE単体として報告されている3種類のopen型コンフォメーション9)のうち,最もコンパクトなopen型コンフォメーションと同じであった(図2).われわれは表面プラズモン共鳴法による相互作用測定13)および化学的アセチル化からの保護領域14)か図2 ?TGEE-ヘム-HO-1複合体の結晶構造.(Crystalstructure of ?TGEE-heme-HO-1 complex.)K149,K153, R185は生化学的実験からCPRとの相互作用に関与することがわかっていたHOの残基. ?TGEEのN末端側とHO-1のC末端側はともに図の下側を向いている.394日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)