ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

電子磁気円二色性によるナノ領域磁気モーメントの測定EMCD信号である. RuszらはEMCD信号と軌道/スピン磁気角運動量の期待値とを結びつける総和則を導いた. 8)XMCDに対する総和則とは異なり, EMCDでは電子と物質の動力学散乱効果を繰り込んだスケーリング因子がふくまれるが,次式のように軌道/スピン角運動量の表式の比をとることでこのスケーリング因子は相殺される:mmLS2∫?σ( EdE ) + EdEL∫?σ( )3 L22q==3 ?σ( EdE ) ? 2 ?σ( EdE ) 9p?6q∫L3 L2∫(5)ここでm L, m Sはそれぞれ軌道およびスピン角運動量の期待値,∫L3 ?σ(E)dEはEMCD信号のL 3ピーク領域にわたる積分を表す.式(5)右辺のパラメータp, qについては後述する.2.3 EMCDの動力学散乱効果図3にBCC鉄の二波条件でのEMCD信号の回折面位置での強度分布の試料厚さ依存性, 9)図4には異なる入射電子エネルギー(加速電圧)に対するEMCD信号の試料厚さ依存性の密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算と動力学的電子回折理論を組み合わせた理論計算結果を示す. 10)試料厚さ10 nmでは運動学的近似の予測する位置付近に信号強度の極大が存在する一方,厚みが増すに従って複雑な動力学回折効果が現れる.また図4に示すように,動力学散乱効果によってスペクトル強度における相対的EMCD信号比が振動しながら減衰することがわかる.またこれとは別に試料が厚くなると,プラズモンロス(約10~30 eV)後にコアロスを起こす多重非弾性散乱確率が増加しスペクトルの高エネルギー側強度を非線形に増加させるために定量解析結果に影響を及ぼすことがわかっている. 11)図3図4BCC鉄の200二波励起条件におけるL 3ピーク位置でのEMCD信号の回折面分布の試料厚さ依存性.加速電圧200 kV.(Sample thickness dependence ofEMCD signal intensity distributions in the diffractionplane.)各図の右上に試料厚さを表示.図中の波線円はThales円を示す.入射電子の加速電圧200 kVおよび1 MVに対するEMCD信号のL 3ピーク強度に対する相対割合の試料厚さ依存性.(Thickness dependence of EMCDsignal fractions with respect to Fe-L 3 peak foraccelerating voltage of 200 and 1000 kV.)G=(200), k fは回折面上検出器位置.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.3.EMCDによる軌道/スピン磁気モーメント比の定量測定3.1統計的信号抽出の重要性このようにEMCDの測定に最適な試料厚さ,回折条件および検出器位置の設定に強い制限が課せられる.さらに総和則を使って定量化するためにS/N比を改善する必要がある.図4を参照すると,検出器位置k fに大きく依存するが,例えばk f=(G, G/2)(黄線)またはk f=(G, G)(青線)の場合には,加速電圧200 kVに比べて1 MVでは相対EMCD信号比が2%以上になる試料厚さ領域がTEM試料厚さ30~35 nm領域へと広がることがわかる.また回折面上における正負のEMCD信号はスケール因子を除いて同じプロファイルなので,回折条件を厳密に揃える代わりに逆空間を網羅して多数の信号を測定し,統計的にS/N比を改善することが可能である. 9)この目的のために,エネルギー幅の小さいスリットをエネルギー軸で走査し,多数のエネルギーフィルター電子回折を取得する方法が採られてきた. 7)原理的には回折面に散らばったEMCD信号を集めて符号を揃え,平均化することでS/N比が向上するはずである. 9)実際には測定中の試料ドリフト,スペクトルドリフトおよび検出器の応答によるノイズなどの影響によって微弱なEMCD信号が歪む.3.2超高圧STEM-EELSを利用した多結晶鉄薄膜の定量EMCD測定13)図5aに古典的分子動力学法を用いて,溶融状態から徐冷によって作製した多結晶鉄のスーパーセル(4×4×18 bcc(約1 nm×1 nm×5 nm))を示す.この単位構造に対して,図3に適用したものと同じ理論計算によって回折面上のEMCD信号強度分布を計算した結果を図5cに示す.符号の異なるEMCD信号は回折面上に散らばっていることがわかる.日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)389