ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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概要

日本結晶学会誌Vol56No6

武藤俊介,巽一厳, Jan RUSZペクトル強度を示す散乱断面積はそれぞれ次式で大雑把に表される(ここで本質的でない前因子を省いた):σ∝ψε?rψδE ?E ?EXAFS2∑f i f iif ,∂σEELSψfψiδEf EiE∂E∂Ω∝1q? 24∑q r ? ?if ,( )( )(1)(2)ここで各変数の詳細な説明は省くが,フェルミの黄金律に基づく電子遷移確率行列要素の演算子部分に注目すると,フォトン(放射光)の偏光ベクトルεに対応するのは電子の運動量移送ベクトルq=k f-k i(ただしk i, k fはそれぞれ散乱前後の電子の波数ベクトル)である. 2003年SchattschneiderらはTEM-EELSにおいてXMCDと同じ情報を与える実験配置を提案し, EMCDと名付けた. 3)その後の理論・実験両面での進展によって空間分解能はナノメートルレベルに達し, 4)-7) EMCDに対する総和則の導出8)によって定量的測定の道が拓かれた.しかし次節以降で述べる理由によって信号強度が微弱であるため,総和則を使って磁気角運動量の再現性の高い定量測定にはこれまで到達していなかった.2.2 EMCDの測定法図1にXMCDとEMCDの実験配置の比較図を示す.フォトンの左右円偏光ベクトルは,大きさが等しく互いにπ/2位相のずれた直交する2つの偏光ベクトルを基底とする一次結合εx±iεyで表現される.これと等価な状況を作り出すために,結晶試料を入射電子に対して二波励起条件(1つのブラッグ反射が強く励起される条件)に設定し,透過波とブラッグ反射スポットを直径とする円(Thales円と呼ばれる)の上にEELS検出器の入射絞りを置く.運動学的近似では透過に対してブラッグ回折波は位相がπ/2ずれており,各反射からThale円上の検出器へ向かう運動量移送ベクトルは直交するので, q x±iq yという運動量移送ベクトルの一次結合が実現し,まさしくXMCDと等価な状況となる. 3),4)さて複数のqベクトルがある場合,図1の配置での非弾性散乱断面積の遷移行列要素は,∑ψf q?rψiψiq’?rψfδEf ?Ei?Eif ,( )(3)と書き換えられ,混合動的構造因子S(q, q’,E)(MixedDynamic Form Factor:MDFF)と呼ばれる.運動学的近似をさらに進めてqベクトルが小さいときに双極子近似が成り立つことを利用すると, MDFFは次式のように簡略化される7):( )∝? ( )+ (×) ( )S qq ,’, E q q’N E i q q’M E(4)ここでEは損失エネルギー,N(E)およびM z(E)はそれぞれ非磁性スペクトル(例えば通常測定によるスピン選択則のない遷移金属L 2, 3ホワイトライン)およびEMCD信号である.ただし測定試料はTEM内の対物レンズ磁場(光軸方向, z軸にとる)によって磁化飽和していると仮定している.式(4)右辺第2項から図1下段右のような実験配置がEMCD信号を最大化することがわかるが,式(2)からわかるように,スペクトル強度自体は検出器位置が逆格子点(ブラッグ反射位置)から離れるにしたがい急速に減衰する.図2にFeのL 2, 3吸収端の理論スペクトル例を示す. 9)2つの検出器位置からのスペクトルμ±(E)の差?σ(E)がzz図1XMCDとEMCDの実験配置の比較.(Schematiccomparison between experimental geometries forXMCD and EMCD measurements.)(上段)XMCDにおける左巻きおよび右巻き円偏光フォトン演算子.(下段左)XMCDと等価なEMCD配置の模式図.(下段右図)TEMでの実験配置模式図.緑円がThales円,赤丸,青丸位置がq x±iq yに対応する2つの検出器位置.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図2図1下段右図の2つの検出器位置で取得されたFeL 2, 3吸収端スペクトル(μ+ ,μ?),および差分(?σ)によって抽出されたEMCD信号の模式図.(L 2, 3spectra measured from metallic iron and theextracted EMCD signal by subtracting the one formthe other.)388日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)