ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み世界結晶年2014記念シンポジウム「未来を拓く結晶学」高輝度光科学研究センター客員主席研究員坂田誠Makoto SAKATA: A Report on IYCr Symposium“Crystallography Toward Future”1.はじめに平成26年11月2日(日)の午前中に,学会員向けシンポジウムとして,表題に記されている記念シンポジウムが開催された.会場は,赤門近くの東京大学の伊藤謝恩ホールで行われた.以前は,学士会館別館があったところであるが,落ち着きのある,素晴らしい会場であった.本来学会誌に載せるので,「報告」とすべきなのであろうが,あいにく報告を書くつもりで聞いてなかったので,私の個人的印象しか書けないため,表題のようなタイトルにさせていただいた.元々,「報告」というような堅苦しいものを書くのは苦手なので,お許し願いたい.2.講演を聞いて三木会長の趣旨説明を兼ねた挨拶に続き,最初の講演は,東京大学および理研CEMSに所属する川崎雅司氏(写真1)の「酸化物エレクトロニクスと結晶」題した講演であった.川崎先生の長年にわたるこの分野での精力的な研究活動に裏付けされた,刺激的で魅力的な講演であった.特に,酸化亜鉛を用いた青色LEDの開発に世界で初めて成功した研究については,きわめて印象的であった.実用化に漕ぎ着けられなかったことの説明として,酸化亜鉛の青色LEDとしての性能が,現在実用化されている窒化ガリウムの性能に追いつく前にリーマンショックにより高純度結晶を開発する設備投資が鈍ったこと,また東日本大震災後に窒化ガリウムLEDが急速に普及し,コストダウンが実現したため,酸化亜鉛による青色LEDの開発が,そこでストップしたとの説明には,社会情勢と研究活動の結びつきの緊密さに,そのような経験のない身としては,大変驚きもしたし,刺激的であった.現在は,酸化亜鉛による量子ホール効果などの研究を進めているとのことで,やはり高品質結晶を育成することに心血を注いでいるようである.半導体の不純物を取り除くのに,地球上で結晶成長する限りは,酸素の影響を完全には排除できないので, III-V属半導体よりも酸化物のほうが,最終的には有利であるというシンプルな発想が,なんとも強烈な印象として残っている.2番目の講演は,大阪大学の清水克哉氏(写真2)の「極限環境超伝導と結晶」と題する講演であった.清水先生は,いろいろな元素に超高圧をかけることにより,超伝導にしてしまうことで有名である.十分圧力が高ければ,どんな元素も超伝導になるという,シンプルなアイデアが研究を進展させる原動力になっている,との印象を受けた.圧力をかけていくと,元素間の電子雲の重なりが始まり,必然的に金属になっていく.さらに圧力を増すと,超伝導が出現するというストーリーのようである.イントロダクションで話されたように,水素でもこのようなストーリーが考えられており,金属水素さらには超電導水素というのは,高圧研究者の,見果てぬ夢のようである.私が興味をもったのは,金属元素リチウムの相転移である.リチウムは,常圧化ではFCCであるが, 80万気圧超高圧下で結晶構造が変化し半導体となる.さらに, 120万気圧で別の構造に変化し再び金属となるとのことである. FCC構造は,理想的細密構造で,剛体球として凝集しているのであればそれ以上に密度を高めることはできないので,圧力を加えても構造変化をしない筈である.それが,構造相転移を示すことは,剛体球という前提が成立していないことを意味しているのであろう.リチウムは,伝導電子が1個しかなく写真1講演中の川崎教授写真2講演中の清水教授380日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)