ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み高分子学会の世界結晶年(IYCr2014)公開シンポジウム京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科佐々木園Sono SASAKI: Footprints of Crystallography in Polymer Science in Japan traced inthe Open Symposium for International Year of Crystallography 2014(IYCr2014)of The Society of Polymer Science, Japan1.はじめに2014年9月25日,高分子学会主催,長崎大学,世界結晶年2014日本委員会,日本結晶学会の共催で世界結晶年(IYCr2014)公開シンポジウムが長崎大学文教キャンパスで開催されました.本シンポジウムは,ノーベル賞受賞者のラウエやブラッグ父子が1914年に近代結晶学の礎を見出してから100年が経過したことを祝う世界的な行事,世界結晶年(IYCr2014)にあわせて企画されました.ノーベル賞を受賞したワトソンとクリックらが1953年にX線回折パターンに基づきデオキシリボ核(DNA)の二重らせん構造を提唱して以降,結晶学は高分子科学の発展に大きく貢献してきました.今日までに,タンパク質からポリマーに至る数多くの高分子物質の結晶構造が主にX線回折測定で明らかにされてきました.日本における結晶学は,1936年に人工雪の製作に成功した北海道帝国大学の中谷宇吉郎の研究,東京帝国大学の寺田寅彦が1913年にNatureに発表した結晶によるX線回折の研究,そして同年に理化学研究所の西川正治が行った天然繊維や鉱物のX線回折実験に端を発するとされています.2.シンポジウム概要近代結晶学は,日本における高分子科学の発展にも重要な役割を果たしてきました.その足跡をたどる本公開シンポジウムは,高分子学会会長の高原淳氏(九州大学先導物質化学研究所教授)の挨拶で始まり,中谷宇吉郎雪の科学館館長の神田健三氏が「結晶研究の先達-寺田寅彦と中谷宇吉郎」と題した講演を行いました.次に,理科学研究所放射光科学総合研究センター副センター長の高田昌樹氏が「高分子科学における近代結晶学の夜明け―それは,寺田寅彦と西川正治によって1913年にはじまった―」と題した講演を行いました.理化学研究所に保管されていた資料に基づき, 1913年ごろに西川正治が竹や麻(セルロース)をはじめとする数多くの物質のX線回折パターンを撮影していたことが報告されました.ヨーロッパと時期を同じくして日本でも高分子材料の構造評価に結晶学が活かされていたことがわかりました.結晶性高分子は,一般的にナノ~メソスケールに至る階層構造を形成することがX線構造解析で明らかにされており,階層構造と物性・機能性は密接に関係することが知られています.この日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)高原淳高分子学会会長,神田健三氏,高田昌樹氏,梶慶輔京都大学名誉教授,村瀬浩貴氏(左から)ことから,結晶学に対する理解は,高分子材料の学術研究のみならず産業界の研究開発においても重要であると言えます.梶慶輔京都大学名誉教授のご講演「高分子結晶の特異性」では,京都帝国大学の桜田一郎らが1939年に日本で最初の合成高分子繊維であるビニロン繊維の開発に成功し, 1950年に世界で初めて日本がビニロン繊維の工業化に成功したことが紹介されました.ビニロン繊維の研究開発に結晶学が不可欠だったことは言うまでもありません.最後に,東洋紡株式会社総合研究所部長の村瀬浩貴氏が放射光を利用した「超高強度高分子の結晶の直接観察」について講演を行いました.村瀬氏のご講演で,超高強度高分子繊維の紡糸過程における構造形成メカニズムの解明に結晶学が活かされた事例が紹介されました.3.おわりにシンポジウム会場の様子本公開シンポジウムは,高分子科学の発展に結晶学が貢献した歴史を学び,また,結晶学の重要性を再確認できる機会になりました.高分子学会と講演者の皆様に本稿をもって御礼を申し上げます.375