ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

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日本結晶学会誌Vol56No6

世界結晶年(IYCr2014)日本の取り組み分子解明のための結晶学の利用(世界結晶年2014若手研究者企画公募プログラム)東京理科大学理学部第二部秋津貴城Takashiro AKITSU: Reports on a Mini-Symposium by Young Reseracher Program ofIYCr20141.はじめに東京理科大学総合研究機構分子連関相乗系研究部門では「分子機能解明のための結晶学の利用」と題するミニ研究会を8月30日(土)に東京理科大学神楽坂キャンパスで開催した.夏休み中の土曜日にもかかわらず約50名もの参加者があり,予定を30分近く超過するほど熱心な質疑応答も繰り広げられた研究会の様子を報告したい.2.研究会の企画と概要化学は物質の構造・物性・反応を研究する学問であるが,結晶性固体の構造や物性を知る最も信頼できるツールとして,結晶学を利用した構造解析法が広く用いられてきた.超分子化学やタンパク質の構造解析が進展するにつれて,これまでの「物質同定法としての構造解析」から,「分子内あるいは分子間相互作用をもつ物質の機能を解明するための構造解析」として結晶構造解析法が用いられるようになってきた.世界結晶年ということもあり, NatureMilestones(http://www.nature.com/milestones/crystallography)にも結晶学に関する特集号も組まれている.歴史的な視点で振り返れば,重要な発見や出来事は,原理や現象,対象となる物質,そして結晶学的手法の利用目的に関することに分類できる.化学分野では,ベンゼン環の平面性,フェロセン分子のねじれ構造,多孔質MOFの三次元構造やナノ空間など対象が複雑化し,現代では常識的な事柄でも,単結晶構造解析による発見や実証が当時はブレークスルーであり,最先端では自己組織化MOFナノチューブの表面構造や超分子構造の磁場誘起配向を小角散乱で観測することも可能である.このような状況を踏まえた現状把握や今後への議論を,本研究会の趣旨とした(写真1).前半では,「新しい分子機能解明のための結晶構造解析法」の利用だけではなく,「新しい分子機能解明のための結晶構造解析法」の開発,改善を目指し,積極的な議論の場とするための講演を集めた. JASRI杉本邦久先生による「放射光X線による精密構造解析の現状と将来」では,SPring-8のX線の発生や特性,電子密度分布の可視化まで可能な精密構造解析,最大エントロピー法とフーリエ変換などの計算手法の紹介,そして発光性金属錯体の基底状態と光励起状態の電子密度分布の変化を観測した研究例などの紹介があった.日本結晶学会誌第56巻第6号(2014)写真1ミニ研究会の模様(趣旨説明:秋津貴城)続いて,原子力機構大原高志先生による「J-PARCの大強度中性子を利用した単結晶中性子構造解析の最前線」では, X線と中性子回折の違い,原子炉から陽子加速器での中性子源の性能向上(パルス中性子, TOF,波長など),単結晶回折計(iBIXやSENJU)の現状とより小さなサイズの単結晶でも以前よりも短時間にデータ測定が可能になった進歩,そして外場印加や偏曲中性子による有機ラジカルの研究例などの紹介があった.後半は,分子化学における新しい分子機能解明のための結晶構造解析法の利用について,対象物質に焦点を当てた講演を集めた.茨城大海野昌喜先生による「毛髪キューティクル内Ca 2+恒常性維持蛋白質群の構造生物学」では,毛髪のダメージの原因とされるタンパク質にはシステインが多く含まれ,亜鉛(II)イオンやカルシウム(II)イオンと結合したり,四量体構造をとることを結晶構造から解明したこと,ゲルろ過による分子量決定やX線小角散乱による溶液構造とも合わせて,分子認識機構を議論した研究例などの紹介があった.東邦大東屋功先生による「一次元連鎖構造に着目した結晶構造のデザイン」では,テトラポッド型有機化合物のアダマンタン分子誘導体が,サドルスタッキング構造を取り,高分子を取り込むチャネル構造や,ナノファイバーやベシクルなどの結晶外形や高次の集合状態までも制御できる研究例などの紹介があった.最後に,東京理科大田所誠分子連関相乗系研究部門長から,水素結合した遷移金属錯体共結晶中のナノ細孔空間に取り込まれたナノチューブ状の水分子の特異な熱的挙動や物性をX線と中性子単結晶構造解析を駆使して解明した研究発表と,総括的な挨拶で締めくくった.日本結晶学会からの全面的な財政的援助に感謝する.369