ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

ページ
56/66

このページは 日本結晶学会誌Vol56No5 の電子ブックに掲載されている56ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No5

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No5

クリスタリットその直後に安定なV型が誘導され, V型結晶核が生成するものである.このメカニズムは融液媒介転移と呼ばれる.(株式会社明治大阪工場古谷野哲夫)硫黄同素体Sulfur Allotropes同素体は,同一元素の単体のなかで,それぞれの原子配列の違うものと定義され,硫黄元素は約30という,元素の中で最も多い同素体をもつ.硫黄同素体の種類の多さは,硫黄のカテネーション(環化)のしやすさに起因しており,環状同素体が約20種存在する.常温常圧で最安定なものは斜方硫黄S 8であり,歪みのない王冠状の構造である(S 8にはこのほかにも単斜晶系も存在する).準安定な同素体として代表的なものに環状S 6がある.この同素体は環の歪みが大きく,反応性に富んでいるが,単離は可能である.このほか,比較的安定な環状同素体としてS 12, S 18, S 20などが知られている.また,直鎖状の無限鎖をもつ同素体も知られているが,準安定種であり,徐々に環状S 8に変化する.構成原子数が6より小さい同素体(小硫黄)は高温でS 2からS 6までの混合気体としてのみ存在する.小硫黄は非常に不安定であり,単離することができない.1)R. Steudel, et al.: Top. Curr. Chem. 230, 1 (2003).(浦項工科大学大津博義)結晶性分子フラスコCrystalline Molecular Flaskナノサイズのフラスコとみなされた結晶性ネットワーク錯体の細孔を「結晶性分子フラスコ」と言い,それに取り込まれた分子の化学反応を細孔内で進行させる方法を「結晶性分子フラスコ」法と呼ぶ.元来は分子性結晶に対して溶液中の「分子フラスコ」の概念が使われてきたが,これを固体の結晶性ネットワーク錯体に拡張したものである.結晶性を保持したまま細孔に試薬を導入することが可能であり,細孔内部ではゲスト分子(試薬)は溶液中のように自由に運動できるため,溶液中の反応と同等の反応を追跡することができる.また,適切なサイズの分子と細孔を選択することで,不安定な化学種の取り込みや保持が可能である.ゲスト分子や反応物は結晶中に規則正しく配列するため, X線回折による直接観察が容易に行える.このため,この方法は,不安定種や反応中間体のX線回折による「その場観察」に適しており,化学反応の可視化が可能となる.1)T. Kawamichi, et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 47, 8030 (2008).2)T. Kawamichi, et al.: Nature 461, 633 (2009).(浦項工科大学大津博義)速度論的および熱力学的ネットワーク錯体Kinetic/Thermodynamic CoordinationNetworksネットワーク錯体(Coordination Networksまたは配位高分子:Coordination Polymer, Metal Organic Frameworks(MOF)とも呼ぶ)は,金属イオン(コネクター)と有機配位子(リンカー)を原料として合成される.このネットワーク合成反応において,反応のエネルギーが局所的最小値(local minimum),すなわち準安定状態の際に単離されたネットワークを速度論的ネットワーク錯体,一方,反応のエネルギーが大域的極小値(global minimum)の際に単離されたネットワーク錯体を熱力学的ネットワーク錯体と言う.速度論的ネットワーク錯体は準安定状態を捕捉することで得られるため,安定な構造として予測されるものとは異なる構造をとり,細孔サイズが大きく,非貫入型の細孔が開いたネットワーク錯体となる場合が多い.また,結合の組み換え途中で得られるため,細孔に相互作用点が存在する傾向がある.一方,熱力学的ネットワーク錯体は最安定構造であり,細孔サイズが小さい場合が多く, 2つのネットワーク錯体が貫入した構造をとり,細孔が塞がってしまうことも多い.(浦項工科大学大津博義)核共鳴非弾性散乱法Nuclear Resonant Inelastic ScatteringMethod核共鳴非弾性散乱法は,原子核の共鳴励起現象を用いて,特定の元素(同位体)の関与する固体中のフォノンもしくは分子振動を測定する分光法である.測定には,モノクロメータを用いて原子核の共鳴準位のエネルギー付近でmeV程度に分光したX線領域の放射光を用いる.この放射光のエネルギーを変化させながら試料に照射した場合,固体のフォノンもしくは分子振動の生成・消滅を伴う原子核励起が起こると,脱励起の際に散乱が観測される.よって,エネルギーを関数とした散乱強度を求めることでフォノン(分子振動)のエネルギースペクトルを測定することができる.エネルギー準位が原子核の種類により異なることときわめて狭いエネルギー幅をもつことから,複雑な分子の場合であってもある特定の元素に注目した振動が測定できることが特徴で1995年に初めて実証された. 1)1)M. Seto, Y. Yoda, S. Kikuta, X. W. Zhang and M. Ando: Phys.Rev. Lett. 74, 3828 (1995).(京都大学原子炉実験所瀬戸誠)342日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)