ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

クリスタリットMogulMogulは, CCDC(ケンブリッジ結晶学データセンター)が作成・(有償)配布しているCSD(ケンブリッジ結晶構造データベース)に登録された結晶構造に基づく分子内ジオメトリーのデータベースである. CSDのデータを基に,指定した部分構造における結合距離,結合角度,ねじれ角の統計値を簡単に取得することができる. CSDは, X線または中性子線回折で解析した有機化合物・金属錯体の結晶構造のデータベースであり, Mogulによって,構造未知の有機分子ジオメトリーを予測することが可能となる.そのため,粉末回折データを用いて行う有機化合物の結晶構造精密化において, Mogulから得られる統計値に基づいて,結合距離,結合角度,ねじれ角,などにリストレインを設定することは,非常に有効な手段と考えられる.(㈱リガク佐々木明登)Rigid BondテストRigid Bond TestRigid bondテストは,結合した2原子において,結合軸方向の平均二乗変位が各原子で等しいことを確認するものである.分子は結晶中で,分子内振動や分子全体の振動など,さまざまな熱振動をしている.通常の条件下,結晶中の振動モードのなかで最もエネルギーが高いのは化学結合の伸縮振動である.結合した2原子間の伸縮振動は,ほかの振動モードに比べ振幅が著しく小さい.このため,結合の長さ(平均原子核間の距離)は一定であるとみなすことができる.したがって,結合はrigidであると仮定できる.結合がrigidであれば,結合している2原子では,結合軸方向の原子変位が等しい. Rigid bondテストは,結合している2原子で,結合方向それぞれの平均二乗変位の差が0に近いかチェックするものである.通常, 0.001 A以下になる.もしも,この差が大きな値をもつようであれば,構造の乱れを考慮した構造解析を行う必要がある.(独立行政法人理化学研究所創発物性科学研究センター橋爪大輔)(不安定,安定)多形ココアバターの多形現象Polymorphism of Cocoa Butterチョコレートに含まれるココアバター(カカオ種子に含まれる油脂)には6種類の結晶多形が知られている.それらは低融点側からI型(mp17.3℃), II型(mp23.3℃), III型(mp25.5℃), IV型(mp27.5℃), V型(mp33.8℃), VI型(mp36.3℃)であり, I~IV型を不安定多形, V, VI型を安定多形と分類している.その理由はV, VI型が室温で長期間(一年以上)安定だからである.しかしさらなる長期,または高温保管では安定多形のV型も最安定多形のVI型日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)へと転移する.その結果,チョコレートの融点が上昇し口溶けが悪化すると同時にチョコレート表面に白い斑点が生じる場合がある(ブルーム現象と呼ばれる).これはV型からVI型への結晶転移の際に結晶成長を伴う結果,表面に成長した粗大結晶が光を散乱して白く見えるためである.このような状態のチョコレートは外観・口溶けが悪くなるが摂取しても体に差し障りはない.(株式会社明治大阪工場古谷野哲夫)ブルームBloom「ブルーム」とはぶどうの果実などの表面に生じる白い粉を吹いたような蝋状物質のことであるが,チョコレートでは2種類の「ブルーム現象」が存在する.1つは「シュガーブルーム」で,チョコレート表面に結露などにより水滴が生じた場合に発生する.チョコレートに含有される砂糖が水滴へ溶解し,その後水分が蒸発乾燥すると溶解した砂糖が再結晶化し,これが表面に「白い粉」を吹いたように見えるブルーム現象となる.もう1つは「ファットブルーム」で,チョコレート製品中のココアバターV型結晶がVI型へと結晶転移する際に,表面にVI型の粗大結晶が生成し,「白い粉」を吹いたような状態となるものである.ファットブルームを生じるその他の原因として,チョコレートを製造する際に行われるテンパリング処理が不適切な場合やチョコレートと他素材との組み合わせの不適合な場合が挙げられる.前者は,テンパリングでの温度処理が不十分で製品がIV型などとして結晶化した場合に生じる.不安定なIV型はすぐに安定なV型へと転移するが,その際に結晶粒が粗大化してブルームとなる.後者では,例えばチョコレートとビスケットとの組み合わせ商品などで,ビスケット中の油脂がチョコレート側へ移行し,低融点画分が増大することによりV→VI転移が促進されることなどが理由となる.(株式会社明治大阪工場古谷野哲夫)テンパリングTemperingチョコレート中のココアバターを安定多形であるV型として結晶化させるために行う温度処理.その方法は,50℃以上で完全融解させたチョコレートを撹拌しながら27℃程度まで冷却し,一定時間保持後31℃程度まで再加熱するものである.その結果,チョコレート中にはココアバターV型結晶核が生じるので,その後の冷却によって融解している残りのすべてのココアバターをV型として結晶化させることができる.テンパリング処理で起こる現象は,最初の冷却に伴って不安定多形であるIII型やIV型が析出する.しかし,続く昇温処理によってこれらの多形の融点以上に加熱されるのでIII型やIV型は融解するが,341