ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

新刊紹介進化を続ける構造生物学―新たなタンパク質機能の解明と創出―松島正明・伊中浩治編㈱化学同人(2014)定価4,500円+税ISBN 978-4-7598-1515-3まずこの本に目を通してもった印象は,非常に魅力的で,つい引き込まれてしまい時間が経っていることを忘れてしまうことである.この本は1章~11章からなるが,どの章から読んでもいいであろう.それぞれの章で書かれていることは独立で,そこには執筆者の個性がでている.この本では構造生物学の代表的側面について書かれているが,それぞれの章は執筆者の体験をベースに書かれている.決して理論や事実を網羅的・客観的に書いた教科書ではなく,各章は執筆者の生き生きとした体験談・読み物の色彩がつよい.この本は以下のような章からなる. 1章:結晶構造解析の基礎(松島正明), 2章:偶然に頼らないタンパク質結晶化―迷宮からの脱出を目指して―(松島正明), 3章:タンパク質の高度精製と高分解能結晶の作成(伊中浩治), 4章:長波長X線の利用と展望―できれば簡単に構造解析したい―(渡邉信久), 5章:細胞表面受容体の不安定なリガンド複合体の発現・結晶化(前仲勝実,橋口隆生,白石充典), 6章:放射光を利用したウイルス粒子の構造解析(中川敦史), 7章:タンパク質に新しい機能を与える(黒木良太), 8章:タンパク質のリアルなシミュレーションへの挑戦―一人のプロジェクトからみんなのプロジェクトへ―(斎藤稔), 9章:構造・物性解析が解明した抗原抗体反応―標的分子への特異性と親和性創出の仕組み―(津本浩平), 10章:電子密度分布は構造の全てを語る(樋口芳樹), 11章:宇宙実験から難病の治療薬開発まで(裏出良博).各章の最初には, 10行前後のSummaryが書かれている.このSummaryにしても,執筆者の考えを含んだ,そしてまた構造生物学の歴史的変遷を含んだ書き方になっている.このSummaryを読んだだけでも平板的でなく(躍動感を感じさせ),読者をつい先を読んでみようかという気持ちにさせる.また,この本の特徴は「若手研究者へのメッセージ」が随所に色付きででてくることである.ここには構造生物学に長年携わってきた執筆者である構造生物学の先輩達からのメッセージが載っている.ここで言うまでもなく構造生物学はこの数十年の間に様変わりし,それに対する各執筆者の思いも込められている.同様に,この本の冒頭には,ノーベル賞受賞者からのメッセージとして, Robert HuberとJohann Deisenhoferが寄稿している.ここには大業を成し遂げた研究者からの,これから活躍するであろう若い研究者への言葉が熱く綴られている.それぞれの章には内容に沿ったことが簡潔に述べられているが,構造生物学がどのように発展しているかの経緯・過程を意識した書き方になっている.そしてまたX線解析で問題になる方法や統計値についても,具体的かつ平易に述べられている.どうしてそうなるか,読者に考える機会を提示しているとも言える.ともあれこの本はものごとの説明に終始するのではなく,構造生物学の魅力を語りかけるように構成されている.したがって冒頭に書いたように,これは教科書というよりも「読み物」と言ってよく,読んでいてつい読むのをやめられなくなってしまう.これがすらすら読めれば楽しいし,もし,ここに書いてあることがわからなければ,どのように取り組めばよいか指針を与えているように見える.構造生物学を支える方法であるX線結晶解析は言うまでもなく回折から構造を導くものであるが,初心者がとまどいがちであることは,回折(逆空間)と構造(実空間)が別の世界であることであろう.そこには1:1の対応関係はない.言いかえれば,そこにある両者の関係を理解するのがX線結晶解析と言ってもよいであろう.この本はこのことを踏まえて,各章で的確かつ多面的に記述していると言ってよい. X線結晶解析が何となくわかりづらい者にとっても,それなりにわかっている者にとっても有益な厚みのある本であろう.(福山恵一)日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)339