ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

結晶学に育てられ,結晶学を育てる故Devid Sayer先生(右)と大阪で開催されたIUCrにて(2008年8月)いうこともありますが,すんなりと受け入れて下さったことは,とてもありがたいことでした.こうして始まったのが2009年からの英国生活でした.自らの英語力の低さを痛感していた時期だったのですが,この英国生活で何とかなる力が得られました.力といっても実は英語力は大して伸びず,コミュニケーションをとる能力がついたと思います.特に辛かったのは仕事関係ではなく,家を借りる,ガス・電気・水道などの手続きをするなど,生活面でした.英国では電話による手続きが一般的で,特に訛りの強い方が相手のときには9割以上理解できませんでした.それでもどうにかできるようになったことは,その後の“なんとかなる”という自信につながったように思います.このほか現地の学会に参加する機会や,現地の他グループとの共同研究などの機会もあり, 1年間という短い時間ではあったものの,英国での生活は非常に価値のあるものでした.2012年からは東京工業大学で助教として八島正知先生の下で研究を進めています.八島研では金属酸化物材料を中心とした研究を進めており,それまで慣れ親しんだ有機化合物とは大きく異なる世界でした.金属元素に強い興味はもったことはなかったため,元素の名前すらうろ覚え状態だったのですが,八島先生との日々のディスカッションのおかげで金属元素のおもしろさもわかるようになってきました.現在の研究テーマは,新しいイオン伝導性金属酸化物の開発やイオン伝導メカニズムを結晶構造解析から明らかにすることです.イオンの流れやすさは結晶構造と深く関係があり,イオンが流れやすい構造を設計して作ることができれば実用的な材料を作れます.特に,革新的なイオン伝導体を開発するためには,新しい構造をもつ物質の創成が課題の1つです.しかし,結晶構造を自由に設計して作ることは簡単ではありません.幸運にも現在までに1つ新しい構造型の酸化物イオン伝導性材料を開発することに成功し,その結晶構造を粉末未知結晶構造解析法で明らかにすることができました.しかし,実用レベルの材料を開発するには,まだまだ課題がある状況です.新しい物質を作り,構造と機能について調べる研究はとても楽しいもので,いずれ良い材料が開発することを目標に研究を進めています.私の研究生活の中で欠かせない話題の1つが,学外施設での実験です.有機物を扱っていた際には質の良い粉末X線回折データを測定するために放射光施設での実験を多く行いました.大型の施設で実験ができたことも貴重な体験でしたが,それ以上に価値があったのは移動中や空き時間に植草先生とお話しできたことです.回折計のこと,解析のこと,結晶化学のことなど多くの教えていただいたことは,今でも私の知識の中心にあります.今では自分が学生を連れて行くような立場になりました.かつて自分が教わったように,結晶学のおもしろさ,知識を少しでも伝えたいと思うのですが,至らない部分が多く,まだまだ勉強するべきことが多いと日々痛感しています.現在は,放射光に加え中性子を利用した回折実験も行っており,日本国内に留まらず海外の施設も利用するようになりました.八島研では高温での回折実験を研究における特徴の1つとしており,学外施設での実験期間も長いことが多くあります.ついつい食事がおろそかになることがあるので,研究室では持ち回りで食事(主に夕食のみ)を作ることにしています.ものづくりの得意な化学系の学生が多いからか,その出来栄えは素晴らしいもので,実験の疲れを癒してくれる楽しみの1つとなっております.最近は,研究室のHPでも作った食事を紹介しているので,興味のある方はぜひご覧下さい(八島研HP内“ミルキー食堂”).あらためて自分の研究生活を振り返ると,結晶学に携わることで多くのことを学び,経験をすることができました.研究者としての自分は,多くの先生方を通し,結晶学によって育てられたように思います.そのおかげで,結晶の不思議な部分を少しずつではありますが明らかにすることができたと思います.それは微力ながら結晶学を育てることにもつながっていると考えています.特に結晶学会誌の2011年連載企画(有機粉末構造解析をはじめよう!)に執筆できたことは,過去にお世話になった結晶学会誌の記事があったからであり,結晶学に育てられた自分の成長を実感できる良い機会でした.今後も結晶学に育てられ,そして結晶学を育て,より多くの“笑顔”が見られるような研究者を目指したいと思います.日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)337