ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

日本結晶学会誌56,336-337(2014)未来へ羽ばたけ!―若手研究者紹介―結晶学に育てられ,結晶学を育てる東京工業大学大学院理工学研究科藤井孝太郎現在1歳の子供がいるのですが,当然のことながら言うことを聞いてくれず手を焼いています.ただ,時折見せる笑顔は例えようのないほど魅了的で,大変さをすべて忘れてしまうほど素敵なものです.今回,執筆の依頼を受けた際,あらためて結晶とは何だろう?結晶学とは何だろう?と考えたとき,それはまるで子供のようだということに思い至りました.結晶を作りたい,構造を明らかにしたい等々結晶学の研究では多くのやりたいことがありますが,簡単にいかないことがほとんどです.その分,結晶ができたとき,構造が見えたときの喜びはひとしおです.広い科学研究の中でも“結晶”や“構造”として目に見える結果が得られることは,結晶学の魅力の1つですし,それが子供の笑顔のようだと感じています.私は2003年に学部4年生で大橋裕二先生・植草秀裕先生の研究室に配属しました.当時は有機化合物や有機金属化合物などの分子性結晶について粉末X線回折データから未知構造解析を行う手法が注目されはじめた時期で,私はそれに関する研究を始めました.まだ解析方法が確立されていなかったため,学部4年次の大半は解析方法を模索することに費やしました.特に粉末回折法は無機化合物について広く使われていたため,分子性結晶の解析法について情報が少なかったことが苦しかったです.とてもありがたかったのは当時の結晶学会誌で,すでに粉末未知構造解析に関する記事が報告されており,とても貴重な情報源となりました.それでも残念なことに卒業論文発表の時点ではすでに単結晶法で構造が明らかにされている物質しか粉末法による構造解析ができませんでした.寂しい結果に落ち込みながら卒業論文を準備していると,驚くべきことに大橋先生は褒めて下さいました.「構造がわかっていたかどうかは関係ない.粉末回折から構造を導けたことはすごいことなのだよ.」当時の私は,この言葉をそのまま受け取り,その後は自分がすごいことをしているのだと(良くも悪くも)勘違いしたまま研究を続けることになりました.その甲斐あってか,その後は未知構造の解析にいくつも成功し,博士号を取得することもできました.特に単結晶が壊れてしまうような結晶の転移現象や結晶中での分子の反応を粉末未知構造解析法で明らかにできたことはとても楽しくやりがいのあるものでした.また,粉末X線未知結晶構造東京工業大学八島研集合写真著者は後列左端藤井孝太郎東京工業大学物質科学専攻助教2009年3月東京工業大学理工学研究科物質科学専攻博士後期課程修了2009年4月英国カーディフ大学博士研究員2010年4月東京工業大学博士研究員2012年4月より現職一言:八島研では新材料の開発や構造と機能の解明に関する研究を進めています.最新の研究成果などが載っているHPをぜひご覧下さい.http://www.cms.titech.ac.jp/ ~ yashima/解析という“手法”を中心に研究を進めていたため,異なる分野の方と共同研究をする機会が多くあったこともとても良い経験でした.私は博士課程の際,企業への就職を考えたのですが,その考えを変えるきっかけになったのが,大阪で開催された国際結晶学連合(IUCr)の会議です.当時は博士課程3年生だったのですが,幸運にも口頭で発表する機会が得られました.初めて英語で30分講演することになり,毎日練習したことを覚えています. IUCrの会議に参加したのは,このときが初めてで,世界中の結晶学者に出会えたことにとても感銘を受けました(次ページの写真はそのときのもの).これをきっかけに自らのいた世界が狭かったことを感じ,日本を出て外の世界を見てみたいと思うようになりました.そんな折,たまたまIUCrもあって来日していた英国のKenneth Harris先生に交渉したところ,博士研究員として雇っていただけることになりました.以前に短期でHarris先生の下に留学していて,お互いに知っていたと336日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)