ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

核共鳴非弾性散乱分光法による鉄含有生体分子の振動構造解析活性化するメタンモノオキシゲナーゼ(MMO)が挙げられる.また, MMOに類似した二核鉄活性中心をもつ,リボヌクレオティドリダクターゼ(RNR)の分子機構についても同様な興味がもたれており,分子機構の解明が望まれている. 13)-15)これらの反応機構を解明するためには,活性酸素結合体の分子構造と反応性の相関について洞察を得ることが重要であるが,人工的な錯体化学的手法を併用することで,酵素反応において生成するような活性化学種を低温条件下で安定に生成させ,また極低温に冷却して分光学的研究を行うことで,精密な構造化学の理解が可能になる.最後に, 3.4には,核共鳴非弾性散乱分光を単核非ヘム鉄酵素に適用し,反応の要となる高原子価鉄-オキソ種中間体の分子振動構造の解明に貢献した研究例を紹介する.3.2ヘム鉄タンパク質モデル錯体の研究例16)ヘム鉄を含むタンパク質においてはヘム鉄に配位する軸配位子の化学的機能の重要性が認識されている. 17)われわれは,ヘム鉄に一般的にみられるイミダゾール軸配位子が,ヘム鉄の分子振動構造に与える影響について検討するために,図5に示すヘム鉄錯体の核共鳴非弾性散乱を測定して比較を行い,さらにDFT計算により,分子振動構造および電子状態の相関について解明を試みた.この研究により明らかにされた要点は以下のとおりである.(1)軸配位子を含まない5配位一酸化炭素結合型ヘムにおいては,鉄面内振動の縮退が保たれ,狭いエネルギー帯に分子振動が局在し,強くシャープなNRVSシグナルを与える(図5B(左)).(2)5配位型では,鉄面内振動やFe-C-O変角など, e対称性をもつ分子振動の力の定数が6配位側と比べて,より小さくなる(擬ヤーンテラー理論により説明できる18))(図6A).(3)5配位と6配位型錯体の比較により, 6配位型錯体におけるイミダゾール軸配位子が関与する分子振動が明らかになった(通常,共鳴ラマン分光では6配位一酸化炭素結合型ヘムにおいて軸配位子が関与する分子振動は観測できない)19)(図6B).これらの基礎的な知見は,ヘム鉄の小分子との反応性と化学的機能について考えるうえで重要な洞察を与える.特に,ヘム軸配位子の分子振動構造は機能発現において本質的であることからも,核共鳴非弾性散乱分光法が有用であることが理解される.3.3二核非ヘム鉄酵素モデル錯体の研究例20)二核非ヘム鉄酵素は,酸素分子活性化および不活性な有機分子の酸化反応において機能する例が多く知られている.その中では,鉄活性中心と酸素の還元により反応中間体が生成することが知られており,そのような不安定化学種の分子構造と反応性の相関の解明が求められている.構造的性質がよく理解された1つもしくは2つの酸素原子が架橋した高原子価二核鉄中心(Fe(III)Fe(IV)およびFe(IV)2)構造をもつ二核非ヘム鉄モデル酵素錯体の分子日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図5図65配位および6配位一酸化炭素結合型ヘムのNRVSおよびDFT計算による解析.(NRVS and DFTanalyses of 5c and 6c CO-heme adducts.)密度汎関数法計算により求められた分子構造(A),振動状態密度(実線)とシミュレーション(各色で塗りつぶされたガウス関数)(B)(5配位一酸化炭素結合型ヘム(左)と6配位一酸化炭素結合型ヘム(右)).5配位一酸化炭素結合型ヘムの基準振動モード(Normal modes of 5c and 6c CO-heme adducts.)(A)(γ9, iron in-plane, FeCO部位の振動(δFe-C-OおよびνFe-CO)はそれぞれ図5B(左)の(I),(II),(III)のバンドにおいて観測されている),および6配位一酸化炭素結合型ヘムの軸配位子の分子振動構造(B)(図5B(右)の(II)のバンドにおいて観測されている).振動構造が,核共鳴非弾性散乱スペクトルにより解析された.これらの化学種は450 cm ?1以下の領域に特徴的な振動構造をもつが,それらは鉄イオンの酸化数の変化に対しては影響を受けないが,酸素原子の架橋構造および鉄イオンのスピン状態の違いにより顕著に影響が現れることが見出された.例えば図7に示すように一酸素原子が架橋した低スピン状態の二核非ヘム鉄モデル酵素錯体(I)は450 cm ?1以下の領域に3つのバンドを示すが,二酸素原子が架橋した低スピン二核鉄錯体(II)においては5つのバンドが観測され,それらは酸素原子が架橋した二核鉄面内の並進および回転の動きを含む振動構造であることが明らかにされた.さらに, DFT計算により,低スピンから高スピン状態に変化する際に,反結合性σ軌道の相互作用333