ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

細孔性ネットワーク錯体を用いたS 3分子の単離と粉末X線回折による構造決定図8S 3からS 6への触媒による変換スキーム.(Schemeof Transformation from S 3 to S 6 by catalyst.)プロトンが触媒の役割を果たす.図9高温での細孔性ネットワーク錯体[(ZnI 2)3(TPT)2]nへの硫黄の捕捉における粉末X線回折の変化.(Change of XRPD pattern by sulfur vapor trappingat high temperature.)(a)元のネットワーク,(b)高温での硫黄補足後のネットワーク.アンモニウムがS 3からS 6への変換反応の触媒となっていることを示している.この際,塩化アンモニウムはプロトン源として働いており,図8に示す変換過程をたどっていると考えられる.実際,相Iに塩酸,アンモニアを順に作用させることで,この変換過程を再現することができ, NH+4のプロトンが触媒となっていることが明らかとなった.この変換は高温下(200℃)において,塩化アンモニウム触媒なしでは起こらず,高温ではエントロピー的にS 3分子が2つ存在することのほうが有利であることを示している.しかし,室温において,このS 3捕捉のネットワークである相Iはすり潰すだけでS 6捕捉のネットワークである相IIに変換した.これは, S 3からS 6に変換する反応は,S 6が分子としてより安定であることから,エンタルピー的に有利であるため,エンタルピー効果の支配する室温ではこの変換が起きることを示している.この変換中で,ネットワーク自身は構造を変えておらず,ネットワークの柔軟性を示している.6.高温での硫黄の取り込み硫黄を260℃で取り込むとS 3が選択的に単離できることがわかった.では,より高温での取り込みではどうなるであろうか.ここで,ネットワーク自身は400℃まで安定であるため, 380℃で硫黄の取り込みを行ったところ,粉末の色が茶色となり,図9に示すように,粉末X線回折パターンもこれまで得られたものとは異なるものであった.この回折パターンから構造を決定しようとしたものの,ゲストの硫黄に対して,正しいモデルを置くことができなかった.日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)そこで,硫黄がどのように捕捉されているかを分光学的に明らかにすることとした.まず,固体の反射紫外可視吸収スペクトルを測定したところ,近赤外領域の約1450 nmにまで広がるブロードなスペクトルが得られた.これは,ラジカルを有する硫黄高分子に特徴的なものである.そこで,この粉末のESRスペクトルを測定したところ, g-値2.004の位置にスペクトルが観測された.これは,高分子硫黄の観測値と一致する. 20)また, IRスペクトルから,692 cm ?1にネットワークに由来しないピークが見られ,これは末端のS-S非対称伸縮振動によるものであると考えられる.このため,高温での硫黄の取り込みでは,高分子硫黄が細孔内に取り込まれたと考えるのが妥当である.この高分子硫黄は約200℃で細孔から抜けることが熱重量(TG)測定から明らかになった.これは高分子硫黄も準安定状態であり, S-S結合が容易に切れるためである.このサンプルの元素分析値から,その組成は[(ZnI 2)3(TPT)2(S 2.72)]であり,細孔に対する硫黄原子の数が少ないことがわかる.このため,細孔内で高分子を構成する硫黄原子は乱れた構造をとっており,正しいモデルを置くことができなかったと考えられる.7.おわりに今回,不安定同素体であるS 3を細孔性ネットワーク錯体に捕捉し,不安定硫黄同素体の1つであるS 3の構造を粉末X線解析により直接観察することに成功した.これは,不安定な硫黄同素体を「結晶性分子フラスコ」により単離できたこと以上の意味を含んでいる. 1つは,細孔における相互作用点の存在の重要性である.今回用いたネットワーク錯体は相互作用点の存在により,「結晶性分子フ327