ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

大津博義図5相Iと元のネットワークとの固体差吸収スペクトル.(Difference solid UV-Vis. spectra of phase I andthe original network.)420 nmにS 3の吸収がみられる.図6相IIのリートベルト解析結果.(Rietveld refinementresult of phase II.)たな吸収が見られ,これはS 3の吸収と帰属できる.さらに,赤外吸収スペクトルから, 680 cm ?1にS 3の非対称伸縮振動に対応するピークが観測された.また,これらのスペクトルから,このS 3は中性であることが確認された.一般に, S ? 3やS 2? 3は安定なアニオン種であり,ウルトラマリンとして知られている強い青色を示す鉱石は,このアニオン種が包接された構造をしている. IRおよびラマンスペクトルからこれらアニオン種に相当するピークは見当たらず,取り込まれたS 3が中性であることを支持していた.また, ESRスペクトルが観測されないことも,これを支持するものであった.4.5細孔内で安定に存在するS 3分子このS 3の捕捉されたネットワークは数カ月間室温で放置していても,何の変化も起こさないほど安定であり,S 3分子が単独では非常に不安定であることとは対照を成している.硫黄の同素体は光や熱などで容易にS 8に変化することが知られているが,このS 3の捕捉されたネットワークは光および熱に対して十分安定であった.実際,TG-DSC測定より, S 3は230℃付近まで安定に細孔内に存在できることが明らかになった.4.6非経験的粉末X線解析による相IIの構造決定さて,相Iの構造は小硫黄S 3の取り込まれたものであることが明らかになったが,では,稀に得られた相IIの構造は何であろうか?この相IIの構造は,韓国の大型放射光施設(PAL, Beamline-9B,韓国)で得られた高分解能粉末X線回折データを用いて,粉末X線構造解析により求めた.指数付けの結果から,空間群は斜方晶系Pccnとなっており,格子体積が相Iの約2倍になっていた.この構造を相Iの場合と同様に解析した結果(図6),図7に示すようにS 6がネットワーク中に取り込まれていることが明らかになった.このS 6は占有率0.5で取り込まれており,これは元素分析値とよい一致を示した.このS 6も細孔を向いているヨウ素と相互作用をしていた.図7相IIの構造:S 6の捕捉されたネットワーク.(Ctystalstructure of phase I:S 6-encapsulating network.)S 6は球状模型で表し,乱れた構造の片方のみを示した.5.細孔内でのS 3分子の生成過程では,なぜ, S 6の取り込まれたネットワークが稀に得られたのであろうか?実はこの細孔にS 6を入れることはサイズ的に不可能である.したがって,小さい同素体S 3が最初に取り込まれて,それがS 6に変換したと考えるのが妥当である.すなわち,何らかの作用により,細孔内で2つのS 3が1つのS 6に変換したと考えられる.そうすれば, S 6分子の占有率が0.5となる解析結果とも一致する.この現象が稀にしか起こらないため,この作用の原因は不純物であると考えた.その不純物としてTPT合成時に含まれる塩化アンモニウムが考えられた.実際,精製した純度の高いTPTを用いた場合,この相IIはいっさい得られなかった.このことを積極的に確かめるために, S 3の捕捉された相Iに塩化アンモニウムを加え,減圧下加熱したところ, S 6の捕捉された相IIに変換した.このことは,塩化326日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)