ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

細孔性ネットワーク錯体を用いたS 3分子の単離と粉末X線回折による構造決定図3相Iのリートベルト解析結果.(Rietveld refinementresult of phase I.)図2硫黄の蒸気拡散による粉末X線回折の変化.(Changeof XRPD pattern by sulfur vapor trapping.)(a)元のネットワーク[(ZnI 2)3(TPT)2]n,(b)パターン1:硫黄補足後ほとんど常に得られる相I,(c)パターン2:硫黄補足後稀に得られる相II.込んだ.4.3非経験的粉末X線解析による相Iの構造決定上記の方法で硫黄を細孔性ネットワーク錯体[(ZnI 2)3(TPT)2]nに取り込んだところ,元のネットワーク錯体とは異なる粉末X線回折パターンが得られた(図2).この実験を行っていた当初,まったく同じ条件下で2つの相(図2中のパターン1および2)が得られるという不可解な現象が見られた.そのため,同じ実験を何度も繰り返し,再現性をとった.すると,ほとんど常に,パターン1を有する相Iが得られたが,ごく稀に,パターン2を有する相IIが得られた.そこで,まず,各々の相の構造を粉末X線解析により特定し, 2つの相の生成が何に起因するのかを明らかにすることとした.まず,ほとんど常に得られる相Iについて,高分解能データを得るために,大型放射光施設(SPring-8, BL15XU)にて粉末X線回折測定を行った.得られた粉末X線回折パターンについてプログラムDASH 17)を用いて,指数付けを行い, SA(Simulated Annealing)法により,構造モデルを構築した.この結果から,この結晶は単斜晶系Pnであり,斜方晶系Pccnである元のネットワーク錯体の約半分の体積となっていた. SA法から,硫黄原子の数を2から6まで変えても,細孔内に3つの硫黄を有する(S3)構造が常に解として得られてきた.これはS 3が細孔内に存在していることを強く示唆するものであった. S 3が取り込まれた構造モデルを,プログラムRIETAN-FP 18)およびVESTA 19)を用い,リートベルト(Rietveld)法により,結合距離,角度,二面角に対するゆるい束縛の下,精密化した(図3).その結果,図4に示すようにC 2v対称の二等辺三角形構造をしたS 3が細孔内に存在していることが明ら日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図4相Iの構造:S 3の捕捉されたネットワーク.(Ctystalstructure of phase I:S 3-encapsulating network.)S 3は球状模型で表し,乱れた構造の片方のみを示した.かとなった. S 3はすべての細孔に捕捉されているものの,2つの方向に乱れた構造をとっている. S 3の選択的捕捉は元素分析値からも支持された. S 3分子の気体中の存在比は,非常に小さく0.1%以下と見積もられており,このネットワークは,非常に希薄なS 3成分のみを選択的に捕捉した,すなわち,小硫黄S 3を混合気体から単離したと言える.この選択性が生まれる背景には,相互作用を有する細孔の存在がある.細孔内の硫黄原子は,細孔内部を向いたネットワーク中のヨウ素原子と相互作用をしている.実際,硫黄原子とヨウ素原子の最短距離は3.3 Aであり,硫黄とヨウ素のファンデルワールス半径の和3.8 Aよりも小さくなっている.相互作用を有する細孔が不安定種の選択的捕捉に積極的に働いたと言える.4.4 S 3分子存在の分光学的証拠S 3分子の存在は分光学的見地からも支持された.相Iと元のネットワークの紫外可視吸収の差スペクトル(図5)から, 420 nm付近に元のネットワークには見られない新325