ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

古谷野哲夫ト中のココアバターとビスケット中の油脂に含まれるトリアシルグリセロール組成の違いに由来するものである.ビスケット中の油脂には低融点の液体油脂が多く含まれるため,ココアバター結晶がそれに溶解し,再結晶化する際に結晶成長を起こしブルームとして観察されるのである.このような現象はチョコレートとナッツとの組み合わせ商品でもしばしば観察される.なお,チョコレートのV→VI転移によるブルームや,ビスケットなどとの組み合わせ商品において生成するブルームは,融点や食感が異なるという品質劣化を伴うものの,結晶状態の違いによるもので成分の変質ではないため,摂食しても何ら危害はない.5.新規チョコレート物性の創出ココアバターはSat-O-Sat型トリアシルグリセロールを主体として含有するため,あたかも一種類の成分でできた油脂のように振る舞うと指摘したが,その主体はPOP,POS, SOSである(P;パルミチン酸, S;ステアリン酸).パルミチン酸とステアリン酸は両者ともに飽和脂肪酸であるが,炭素数が2個異なる.この結果, POP, POS, SOSはそれぞれ異なる融点をもつ.この三成分の相図を検討した結果, SOSを増量すると融点は上昇し, POP画分を増やせば融点を低下させることができる(図6). 6)この性質を利用し,チョコレートにSOSを多く含む油脂を添加することで,その融点を上昇させることができる.これは夏場の暑い時期にチョコレートを融けにくくするために行われる場合がある.逆に,冬の寒い時期にはPOP画分を増やすことで融点を低下させ,食した際に口中で融けやすく設計することが可能である.「冬季限定チョコレート」として販売される製品では,このような油脂組成の調整を行うのである.このようにチョコレート中の油脂組成を分子レベルで調整することにより油脂結晶構造を変化させ,その結果,新たな物性を創出することが可能である.それはチョコレートとは「結晶を食べる」食品だからなのである.文献1)佐藤清隆,古谷野哲夫:カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン,幸書房(2011).2)R. L. Wille and E. S. Lutton: J. Am. Oil Chem. Soc. 43, 491(1966).3)T. Koyano, I. Hachiya, T. Arishima, K. Sato and N. Sagi: J.Am. Oil Chem. Soc. 66, 675 (1989).4)森行和哉,大場健司,近藤貴子,野豊,長島啓一,古谷野哲夫,本同宏成,上野聡,佐藤清隆:第41回結晶成長国内会議(2011).5)I. Hachiya, T. Koyano and K. Sato: Food Microstructure 8, 257(1989).6)T. Koyano, Y. Kato, I. Hachiya, R. Umemura, K. Tamura andN. Taguchi: J. Jpn. Oil Chem. Soc. 42, 453 (1993).図6POP/POS/SOS三成分系の融点. 6)(Melting pointof mixtures of POP/POS/SOS.)プロフィール古谷野哲夫Tetsuo KOYANO株式会社明治大阪工場Meiji Co., Ltd. Osaka Plant〒569-1134大阪府高槻市朝日町1-101-10 Asahi-machi, Takatsuki-shi, Osaka-fu 569-1134,Japane-mail: tetsuo.koyano@meiji.com最終学歴:1982年早稲田大学大学院理工学研究科修了, 1991年広島大学にて農学博士.専門分野:油脂結晶物理学現在の研究テーマ:カカオの品質改良研究趣味:ハイキング(低山徘徊)322日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)