ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

チョコレートの結晶学図5せん断応力がテンパリング中のココアバター多形変化に及ぼす影響(放射光X線測定による動的評価). 4)(Effectof shear stress on change of cocoa butter polymorphs during tempering process observed by SR-Xray.)融液媒介転移によるV型結晶の析出である.テンパリング操作における初期の冷却において,ココアバター中には不安定多形であるIII型やIV型が析出する.これらはその後の昇温操作で融点以上となるために融解するが,融解と同時により安定なV型結晶が生じるというものである.その状況は放射光X線を利用したテンパリング中の結晶状態の動的観測によって示された. 4)図5にその一例を示したが,本研究はテンパリング中に撹拌力(shear)を与える効果を評価したものである. X線スペクトルは長面間隔を測定することで不安定多形と安定多形を区別しを同定している.温度操作に伴い,不安定多形であるII型が昇温時に消失し,直後に安定多形のV型が出現していることが示された.3.2種結晶添加による多形制御テンパリングは融液ココアバター中にV型結晶核を生成させる方法であるが,外部からV型結晶を投入することで,テンパリングと同様の結果を得ることも可能である.この方法は,チョコレート職人が経験的に行っているもので,融解する前の固形チョコレートの一部を削って粉状にし,それ以外のチョコレートを融かして30℃に調温する.そして最初に作製したチョコレート粉末を添加する方法である.融かす前の固形チョコレート中のココアバターはV型として固化しているので,それを粉末化したものはV型結晶核となり得るのである.同様の発想で,純粋な油脂をV型に調整し粉末としたものはテンパリングの代替となる.さらにココアバターとは異なる特殊な植物性油脂で,ココアバターV型と同等な結晶構造を作製しテンパリングの代替を行う方法が実用化されている. 5)ここで用いる油脂は,グリセリンのsn-1,3位にベヘン酸(C 22:0)を, sn-2位にオレイン酸をエステル結合させた油脂(BOBと称す)である. BOBも多形現日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)象を示すが,そのβ2型はココアバターV型と同等の結晶構造をもっている.この粉末はテンパリングの代替として利用できるだけでなく,新規な機能も発揮する.それは,BOB(β2型)結晶の融点が53℃と高いため,ココアバターが融解してもBOBはチョコレート中に結晶として残存する性質を利用したものである.通常はチョコレートが高温でいったん融けてしまうと,テンパリングをしない限りココアバターは均一なV型として結晶化しない.しかしBOB結晶粉末を含むチョコレートでは,ココアバターが融解しても, BOB結晶が残存する温度であればチョコレートはテンパリング操作をしなくともV型として再度結晶化するのである.例えば,消費者が購入したチョコレートを高温下に晒してしまっても,冷蔵庫で冷やせば元の状態に自動復帰する機能を付与することができる.4.チョコレートの保存性先に記したようにココアバターには6種類の多形が存在し,最安定多形はVI型である.しかしながらチョコレート製品中のココアバターはV型であるため,熱力学的に最安定のVI型へ徐々に固相転移する.この転移に伴って融点上昇,結晶成長が生じる.この転移速度はチョコレートの保管される温度条件に依存する.古くなったチョコレート表面に生じる白い斑点(ブルーム)は,ココアバター結晶が最安定型として結晶成長した結果である.V→VI転移を防止することはできないが,その速度を遅延させるために各種の乳化剤などを添加する方法が知られており,それらは結晶に対する不純物効果として理解することができる.ココアバターのV→VI転移以外にもチョコレート製品では,例えばチョコレートとビスケットを組み合わせた商品などでブルームを生じる場合がある.これはチョコレー321