ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

日本結晶学会誌56,319-322(2014)産業界で活躍する結晶学(5)チョコレートの結晶学株式会社明治大阪工場古谷野哲夫Tetsuo KOYANO: Cristallography of ChocolateChocolate consists of solid particles such as cocoa, sugar, and milksolids which are dispersed in a continuous fat phase. The major fat inchocolate is cocoa butter, and it is crystallized at room temperature, sochocolate is a food which we eat crystals. Therefore, fat crystals playa great role in chocolate quality and storage stability. In this paper,polymorphism of cocoa butter and the transformation of polymorphicforms are reviewed including recent results.1.チョコレートは食べる結晶1.1カカオ豆チョコレートは世界中で愛されている嗜好性食品である.板チョコはもとより,チョコレートアイスクリーム,チョコレート風味のケーキなど,チョコレートの香味をもった菓子やデザート類はなくてはならないものとなっている.これらの基本となる「食べるチョコレート」は1830年に英国で発明されたものであるが,それ以前は「飲むチョコレート」であった.それはスペインによる征服よりもはるか前に中南米で開発された食糧の1つであり,非常に珍重されたものである. 1)チョコレートの原料はカカオの木(Theobroma cacao,L.)の種子(カカオ豆と呼ぶ)である.カカオ豆を焙炒し種皮を取り除き,内部の胚乳部分を磨砕したものがカカオマスである.カカオマスにはココアバターと呼ばれる油脂が55%ほど含有されているため,すりつぶしたカカオ豆はペースト状となる.カカオ豆に含まれるココアバターはきわめて特殊な油脂であり,チョコレート製造とその品質においてきわめて重要な役割を演じる.1.2ココアバター油脂とはグリセリンの3個のOH基に脂肪酸がエステル結合したもの(トリアシルグリセロール)であり,脂肪酸の種類とグリセリンに結合する位置によってさまざまな油脂分子が存在する.脂肪酸としては, C 2~C 40程度までの範囲があり,種々の不飽和脂肪酸も含まれる.一般に天然油脂中には非常に多くの種類の油脂分子が混在しており,その分子種と存在割合によって油脂の性質が支配される.ココアバターはグリセリンのsn-2位にオレイン酸がエステル結合し, sn-1,3位にパルミチン酸(C 16:0),またはステアリン酸(C 18:0)がエステル結合した分子が全体の80%日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図1表1Sat-O-Sat型油脂分子の構造.(Molecular structureof Sat-O-Sat type triacyl glycerol.)ココアバターの化学組成.(Triacylglycerol compositionof Cocoa Butter.)PLiP1.4POO2.9POP17.3SOO3.9POS38.6SOS27.4Others8.4P;Palmitic acid(C 16:0),S;Stearic acid(C 18:0),O;Oleic acid(C 18:1cis), Li;Linoleic acid(C 18:2)Total100.0以上を占めている.これら分子は, Sat-O-Sat(飽和脂肪酸(Sat)-オレイン酸(O)-飽和脂肪酸(Sat))の意味で「Sat-O-Sat」型トリアシルグリセロールと呼んでいる.つまりココアバターに含まれる大部分の油脂分子はこのSat-O-Sat型である(図1,表1).このような分子はその構造が類似しているため,ほかの天然油脂には見られない特殊な結晶化挙動を示す.1.3チョコレートとは「食べるチョコレート」は19世紀に発明されたが,これはカカオマスに砂糖とココアバターを加えて微粒化してから固化させたものである.チョコレートの構造は,ココアバター油脂中に微粒子となった砂糖やカカオ固形分が分散されたもので,連続相は油脂である.この油脂が結晶化することでチョコレートは固まり,融解することでチョコレートは液体となる.つまりチョコレートを結晶物理学的に観れば,チョコレート製造においてはココアバターの最適な結晶化を行い,摂食する際にはココアバター結晶を319