ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

橋爪大輔(a)(b)(c)図5C-P-C-Pビラジカル化合物のStatic Model Map:(a)C-P-C-P環上;(b)はC1, C1 iを通りC-P-C-P環に垂直な平面上の電子密度を表している.実線と破線の等高線はそれぞれ正,負の密度を示す.間隔は0.05 e/A 3 .(c)はC-P-C-P環上のρについてのgradient trajectory(細線), BP(破線), BCP(●), RCP(■)を示している.[Symmetrycode(i):?x, ?y, ?z](Static model maps of biradiral compound;(a)on the C-P-C-P plane,(b)the cross sectionof the C-P-C-P plane through the skeletal carbons. Contours drawn with solid and dashed lines indicate positiveand negative densities, respectively. The interval is 0.05 e/A 3 .(c)Gradient trajectories(fine lines), bond paths(broken lines), BCPs(circle), and RCPs(square)on the C-P-C-P plane.)[Symmetry code(i):?x, ?y, ?z]カル間で結合を形成するか,何らかの相互作用をしていても不思議ではない.多極子展開による電子密度分布解析によって得られた,Static Model Mapを図5a, bに示す.なお,測定は実験室系のCCD検出器搭載した回折装置で行った.ラジカルの電子密度はC-P-C-P環の炭素原子上,環に垂直に伸びていた.その形状から,ラジカル不対電子は主として, sp 2混成状態の炭素原子の2p軌道を占めていることが明確になった.一方,この電子密度はC-P-C-P環の上下で非対称であった.これはラジカル炭素がわずかながらsp 3混成しているためであると考えられる.図5cに電子密度のgradienttrajectory図を, BCP, RCP, BPとともに示す. RCPがC-P-C-P四員環の中心にあり,環の対角にある近接したC…Cおよび,P…P間に結合的な相互作用がないことが明確になった.5.おわりに本稿では多極子展開法による電子密度分布解析について簡単に紹介した.文字ばかりでわかりにくい原稿であることは,ご容赦いただきたい.本手法が論文で発表されたのは36年前である.手法としては成熟していたが,これまでは,いわゆる「電子密度分布解析専門家」が中心となって研究が行われていた.しかし,今年モントリオールで開催されたIUCr2014では,多極子展開法を中心とした電子密度分布解析に関連するマイクロシンポジウムがいくつか開催され,裾野の急速な広がりと,手法の一般化の進行を実感した.化学分野の結晶科学研究では,粉末構造解析とともに,すでに一般的手法になりつつある.測定の難易度が高く,解析の方法も試料ごとに変わるので,成功率が低く,時間がかかる手法である.また,コツや秘伝の技などどこにもない,妥協が許されない基本の積み重ねだけの地道な測定・解析ではあるけれど,化合物の選択のセンスがあれば,得られるものも多々あると,これまでの15年の電子密度分布解析の経験から申し上げる.謝辞本稿で紹介した多極子展開法による電子密度分布解析は電気通信大学の助手として勤務していた時期に,岩崎不二子教授(現名誉教授),安井正憲准教授のご指導の下で始めたものです.この場をお借りして感謝を述べさせていただきます.図3に示した研究では,株式会社リガク三好烈麗博士に測定・解析ともにお世話になりました.ビラジカルの研究は,東京工業大学大学院理工学研究科の伊藤繁和准教授との共同研究です.共同研究者の皆様に厚く御礼申し上げます.文献1)N. K. Hansen and P. Coppens: Acta Cryst. A34, 909 (1978).2)R. F. W. Bader: Atoms in Molecules: A Quantum Theory,Oxford University Press (1990).3)V. Schomaker and K. N. Trueblood: Acta Cryst. B24, 63 (1968);F. L. Hirshfeld: Acta Cryst. A32, 239 (1976).4)J. Harada and K. Ogawa: J. Am. Chem. Soc. 126, 3539 (2004).5)P. Coppens: International Tables for Crystallography, Vol. C, Ed.By A. J. C. Wilson, Chapter 8.7, pp.627-645, Kluwer AcademicPublishers (1992).6)S. Ito, Y. Ueta, T. T. T. Ngo, M. Kobayashi, D. Hashizume, J.Nishida, Y. Yamashita and K. Mikami: J. Am. Chem. Soc. 135,17610 (2013).プロフィール橋爪大輔Daisuke HASHIZUME独立行政法人理化学研究所創発物性科学研究センターRIKEN Center for Emergent Matter Science(CEMS)〒351-0198埼玉県和光市広沢2-12-1 Hirosawa, Wako, Saitama 351-0198, Japane-mail: hashi@riken.jp最終学歴:東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻.博士(理学).専門分野:精密有機結晶化学現在の研究テーマ:新奇化学結合の結合状態の解明趣味:海遊び318日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)