ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

ページ
25/66

このページは 日本結晶学会誌Vol56No5 の電子ブックに掲載されている25ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No5

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No5

進化した粉末結晶構造解析ツール図7 4’-methoxy-4-azachalcone hydrochloride(1a)の結晶中光環化反応,および反応後の生成物(1b)の結晶構造.(Photocyclization of 4’-methoxy-4-azachalconehydrochloride(1a)in crystals, and crystal structureof the product(1b)obtained after the reaction.)アタッチメントを使えば誰でも簡単に行うことができる.in-situ測定の利点は,温度や湿度などの変化による試料の相転移などがあった場合に,その情報が回折パターンの変化となって現れることである.一般に,材料物性は温度や湿度によって変化することが多く,その原因は結晶構造の変化であることが多い.回折パターンの変化前後の結晶構造解析を行うことができれば,物性と結晶構造を結びつけるのは容易だが,単結晶構造解析の場合,温度や湿度の変化によって単結晶状態を保てなくなる場合が多く,単結晶構造解析が困難となる.もし,粉末試料のin-situ測定によって得られた回折パターンを,簡単に解析することができるようになれば,材料物性分野における粉末結晶構造解析の役割は,今後ますます大きくなることが期待される.以下に2つのアプリケーション例を示す.5.1結晶中での光環化反応生成物の結晶構造解析図7に示す4’-methoxy-4-azachalcone hydrochloride(1a)は,結晶中で,紫外線照射によって2+2の光環化反応を示すことが知られている.反応前の1aは,単結晶構造解析によってその結晶構造がわかっていたが,光反応後の環化した化合物の結晶構造は解明できていなかった.山田らは,紫外線照射を行い, 17)その結果得られた回折データを用いて粉末結晶構造解析を行った.以前の連載企画16)でも述べたが,粉末結晶構造解析の場合,不純物の同定ができれば,不純物由来のピーク強度を回折データから差し引くことで,目的の化合物の回折パターンを得,その回折パターンを用いて目的の化合物の結晶構造解析を行うことができる.ここでは,光反応後の試料には,未反応の1aおよび反応後の環化生成物1bが含まれているため,まず1a由来のピーク強度を差し引いて解析することで, 1bの結晶構造を得ることに成功した,なお,リートベルト解析の結果,未反応の1aが42 wt%含まれていることがわかった.日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図8 Niエチレンジアミン錯体の脱水水和反応による分子構造の変化.(Structural changes of Ni-ethylenediaminecomplex due to hydration/dehydration/phasetransition.)2a:無水物(安定相), 2b:水和物, 2c:無水物(準安定相). 2a:Anhydrous(stable phase),2b:Hydrade, 2c:Anhydrous(metastable phase).5.2 Ni錯体の脱水水和反応生成物の結晶構造解析図8に示すNi錯体は,湿度雰囲気下で水和し,乾燥すると脱水するという,可逆的な水和・脱水反応をすることが報告されている.このとき,温度を高くすることで脱水したのだが,その際, 420 K付近で熱量変化を伴わない回折パターンの変化が観測された(変化後の相をA相とする).さらに温度を上げると, 450 K付近で吸熱変化を伴って回折パターンが変化した(変化後の相をB相とする). B相は,水和する前の2aの回折パターンと一致していたが,A相は水和する前後のパターン(2aおよび2b)のいずれとも異なっていた.後に, A相は準安定相であることがわかり,得られた回折データに基づいて結晶構造解析を行うことに成功した(2c).このように,粉末回折測定は迅速に行うことができるため, in-situ測定において試料の相転移を観測することができる.そして,得られた回折データからの結晶構造解析に成功すれば,物性と構造を簡単に結びつけることができる.6.おわりに粉末結晶構造解析ツールの進歩は,結晶構造解析の可能性を広げ,またソフトウェアパッケージの存在によって,ユーザー層が広がっている.結晶構造解析ツールの第一選択肢は,その歴史と正確さから単結晶構造解析であることに変わりはないが,単結晶構造解析で不可能であったことが粉末結晶構造解析で可能になりつつある現在,結晶構造解析を必要としている多くの研究者や材料開発者の方々に,粉末結晶構造解析を利用してもらえるようになることを願ってやまない.311