ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

佐々木明登リストレインを設定すれば,経験的な値に基づいた最適な構造精密化を行うことが可能である.なお,比較的簡単な分子でも設定しなければならない結合距離,結合角度は40~50にのぼる. Mogulへの部分構造の入力だけでも骨が折れるが,弊社製の粉末X線解析ソフトウェアPDXLをCSDSと同時に使用すれば,ごく簡単な操作ですべての結合距離,結合角度のリストレインを一度に設定できる.以上,ここで述べてきたソフトウェアは,いずれも「粉末結晶構造解析ソフトウェアパッケージ」として配布,販売されている.つまり, EXPOやPDXL 12)は, 1つのソフトウェアで指数付けから構造精密化まで粉末結晶構造解析に必要なすべてのステップをこなすことができる.こうしたパッケージとしては,ほかにも, TOPAS 13),14)やDASH 15)などが知られており,専門家でなくともこの分析手法を簡単に使える土台が増えている.4.適切な光学系の選択ところで,こうした最新のツールやパッケージを使っても,最終的に得られた構造が正しいか否かの判断は容易ではない.以前の本学会誌の連載企画16)でも述べたが,粉末結晶構造解析であるがゆえの不確定要素がいくつかある.本稿では詳細は省略するが,正しい構造は1つしかなく,得られた構造のみが回折データを説明できる結果でなければならない.言い換えると,複数の構造が,得ら表22012年1月1日現在, CSDSに登録された結晶構造のR値の範囲,構造数,全体に占める割合.(Structuresdeposited in the CSDS up to 01/01/2012. For eachrange of R cryst, N str and%are the number of structuresand percentage, respectively.)R crystN str%0.01 ? 0.036277410.50.03 ? 0.0412270620.60.04 ? 0.0513552522.70.05 ? 0.0716326927.40.07 ? 0.096065110.20.09 ? 0.10133702.20.10 ? 0.15183533.10.15<38350.6れた回折データを説明できてはならないのである.偽の解に陥らないためには,精密化の結果得られたR値が,十分小さな値でなければならない.表2を見ると, 7%以下が論文として報告されている結果の7割以上を占める.つまり,少なくとも7%以下になるように解析を行う必要があり,また, 7%以下を実現できるようなハイクォリティなデータを収集する必要がある.以前の連載企画16)でも述べたが,実験室系の回折装置や光学系で,粉末結晶構造解析に最も適しているのは,図5に示すKα1光学系である.ただし,データのピーク分解能は光学系だけでなく,粉末試料の結晶性などにも影響されるため,いつもこの光学系を使用すればいいわけではない.観測されるピークの数が少なければ,無理に高分解能の光学系を使用する必要はない.ピークの半値幅は,光学系によっては2θ依存性がある(図6).そのため,低角側の半値幅の狭さを優先するか,広範囲にわたって半値幅がある程度狭いのを優先するか,は,格子の長さや試料が有機化合物か無機化合物かに依存する.格子の長い有機化合物ならば,低角側にピークが密集するため,指数付けのためにピーク分解能を良くする必要がある一方,高角側でピークはほとんど観測されなくなるため,集光ビーム光学系(CB)が推奨される.格子の短い無機化合物ならば,低角側のピーク本数は少ないため,さほどピーク分解能を必要としない代わりに,高角側までピークが観測されるため,平行ビーム光学系(PB)が推奨される.5.アプリケーション粉末回折測定の利点の1つに,比較的容易にin-situ測定を行える点が挙げられる.試料の温度・湿度変化,またはガス雰囲気下での測定などは各社から販売されている図5Kα1集光ビーム光学系.(Kα1 focusing beam optics.)図6光学系およびキャピラリ径の違いによるピーク分解能の2θ依存性.(2θdependency in peak resolutionfor different optics and capillary diameters.)310日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)