ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

佐々木明登図3COVMAP法を用いた初期構造決定フロー.(Flowof initial structure determination using a COVMAPbasedmethod.)図2フーリエ合成によって得られた重原子A 1と軽原子A 2の位置の再現.(a)RBM適用前(b)RBM適用後.(Reproduction of the positions and intensitiesof a heavy atom A 1 and a light atom A 2.(a)BeforeRBM,(b)After RBM.)っている.分子量300~400程度の有機化合物であれば,直接法+RBMに要する時間は20秒程度もしくはそれ以下である.2.1 COVMAP法これまで述べてきたとおり,粉末回折データを用いて直接法を行うと,電子密度ピークの位置や強度に無視できない誤差が生じることが多い.ただし,その中でも密度の高い数個のピークは実際の原子位置からあまりずれていないと考えることができる.この数個のピーク位置を基にして,直接法で見つけられなかった原子位置を予想し復元する方法が, COVMAP法5)である.有機化合物の場合,結合を作る原子同士の距離はおよそ1.0~2.0 Aの範囲内にある.仮に,フーリエ合成によって得られた2つの電子密度ピーク位置の距離が2.5 Aだったとすると,これら2つの原子は結合を作らず, 2つの原子を橋渡しするように,中間にもう1つ別の原子が存在することが予想される.この考えを基に,先に述べた1電子密度の高い数個のピーク位置を基準にして,新たにいくつか予想される位置に原子を追加する.2そうしてできあがった新たなモデルで構造因子を求め,重なったピークをここで求まった構造因子で再分配し,強度分解を再び行う.その後, 3フーリエ合成を行い,電子密度分布を求め,原子を再配置する. COVMAP法は,1~3を繰り返すことで,徐々に原子位置の精度を高めていく方法である.図3に, COVMAP法を用いた場合の初期構造決定の流れを示す.ここに示すように,実際には, wLSQ 6)(重み付き最小二乗法)とRBMを組み合わせて電子密度分布を改良していく.さらに, Altomareらは, COVMAP法の最初のステップで,直接法で求まった電子密度分布を使用せず,まったくランダムな原子位置からスタートして, COVMAP法を適用し,実際の原子位置を求めていく方法もEXPOに搭載した. RAMM 7)(Random Model based Method)と呼ばれており,直接法, Charge flipping法と異なる,第3の非経験的解析手法として期待される.2.2 HBB-BC法粉末結晶構造解析の初期構造決定のステップで,特に有機化合物を解析する場合に最もよく用いられる手法は「実空間法」である.実空間法とは,測定データと同じ回折パターンが得られるように,単位格子(正しくは非対称単位)中で分子の位置,向き,ねじれ角を,大域最適化アルゴリズムを用いて探索する方法である.例にもれず,EXPOにも実空間法のアルゴリズムは搭載されている.EXPOは, SA 8)(Simulated Annealing)法を搭載しているが, Cost functionとして回折積分強度の式を選択できること,直接法によって得られる電子密度マップを参考に探索範囲を限定できること,などの特長がある.いずれも実空間法の計算時間を短縮するために導入されたオプションだが,これらのオプションを有効に使用するためには,実空間法に通常用いる回折データよりも高いピーク分解能を必要とする.一方, EXPO2014では,大域最適化アルゴリズムそのものが新しくなり, HBB-BC(Hybrid Big-Bang Big-Crunch)法が導入された. BB-BC法はErol 9)らによって考案され,その特徴から実空間法に採用されることが示唆されてい308日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)