ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

ページ
21/66

このページは 日本結晶学会誌Vol56No5 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No5

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No5

い特集:化学分野における結晶学-化学結晶学の“現ま在日本結晶学会誌56,307-312(2014)”を切り取る-進化した粉末結晶構造解析ツール㈱リガクX線機器事業部アプリケーション・ソフトウェア開発部佐々木明登Akito SASAKI: Advanced Tools for ab initio Powder Crystal Structure AnalysisThe methods for ab initio crystal structure analysis from powder data have been highlyevolvedfor these 20 ? 30 years. Recently many people can use the technique thanks to somesoftware packages for the powder structure analysis such as EXPO, even if they are nonprofessionalusers. In such packages, there are new good tools which do not seem to be verypopular. Here such the new, useful methods, which will make your analysis a success moreoften, are described.1.はじめにブラッグ父子により岩塩の結晶構造が解析されてから今年で100年が経過するが,粉末試料の回折データを用いて行う未知粉末結晶構造解析の歴史はまだ浅い.しかしながら,未知粉末結晶構造解析が,ここ20~30年で急速に進化した分析手法の1つであることは言うまでもない.進化を支えてきたのは,解析を行うコンピュータの処理能力の目覚ましい進歩が大きいが,進化した処理能力を活かして,次々と新しい解析アルゴリズムが生み出された結果,第一線の研究者だけでなく一般のユーザーに広く普及することとなった.本稿では,こうした解析アルゴリズムを含む最新の解析ツールをいくつか紹介したい.また,進化した解析ツールを活かすための回折データを収集する装置,およびアプリケーションについても少し触図1未知粉末結晶構造解析の手順.(Procedure of abinitio crystal structure analysis based on powder diffractiondata.)SA:Simulated annealing. GA:Genetic algorithm. PT:Parallel tempering.日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)れようと思う.未知粉末結晶構造解析には,指数付け(格子定数の決定),初期構造決定,構造精密化,という3つの大きなステップがある.中でも,粉末回折データからの初期構造決定は,単結晶構造解析とは異なり,回折データの空間分解能の低さとピーク分解能の低さのため,一筋縄ではいかない.本稿では主に,世界的に評価の高い粉末結晶構造解析ソフトウェアパッケージ“EXPO”がもついくつかの最新初期構造決定アルゴリズムを紹介する.図1に,紹介するアルゴリズム(太字・下線で示す)とともに,未知粉末結晶構造解析の簡単なフローチャートを示すので,各章を読みながら,適宜参照されたい.2.EXPOEXPO 1),2)は,粉末回折データ専用の「直接法」を古くからもっているが,最近5年ほどで初期構造決定の正解率は非常に高くなった.その背景には,直接法だけに頼らず,さまざまな情報を駆使してより確からしい原子位置を導き出そうと努力しているからだと考えられる. RBM 3),4)(Resolution Bias Modification)はその最初の大きな試みであった.多くの有機化合物では,粉末回折データの空間分解能は, d値で1.5 A(λ=CuKα1で2θ≒60°)程度であり,原子位置を原子サイズレベルで特定できるだけの情報がない.その分解能の低さゆえ,回折強度データのフーリエ合成によって得られる電子密度ピークは,それぞれの周辺にフーリエ変換の打ち切り効果によるリップルが存在する.このリップルが,隣接した電子密度ピークの位置や強度に誤差を与える. RBMはこの誤差を補正するものである(図2).最新のEXPO2014では,デフォルトで,直接法で得られた電子密度マップの補正をRBMによって行うようにな307