ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

J-PARCの大強度中性子を用いた結晶化学の新展開図74 Kで測定した有機結晶からの回折パターン.(Diffraction image of an organic molecular crystal at 4 K.)(上)本測定時に用いた37台の二次元検出器(円筒形配置)を平面上に展開したもの(底面の1台は図から省略).(左下)検出器上の四角で囲った領域のTOFプロファイル.(右下)TOFプロファイルのうち,短波長領域(0.55~1.35 A)を拡大した図.よって結晶格子中に生成する不安定化学種や準安定化学種をトラップする上で有効と期待される.現在,光ファイバーによって4 K冷凍機内の試料結晶に可視光を照射するためのシステムについて試運転を進めており,光照射と極低温を組み合わせた中性子回折測定が近く実現できると期待される.また,図7右下のTOF方向のプロファイルを見ると,TOFの小さい,すなわち波長の短い領域までBragg反射が観察できていることがわかる.原子核は電子のような空間的広がりをもたないため,中性子回折ではX線回折で見られるような構造因子のQ依存性は見られない.そのため,原子の熱振動が抑えられる低温での測定ではhigh-Q領域までBragg反射を観察することができる.実際に,この有機結晶ではd-spaceが約0.35 AのBragg反射まで観察することができた.これはX線を用いた精密構造解析で必要となる分解能とほぼ同等である.原子核の位置と熱振動を中性子で求め,電子密度分布をX線で求めるというX-N deformation density map 14)は1970年代にはchargedensity analysisにおいてしばしば用いられてきたが, X線に比べて中性子回折データの分解能が低いなどの問題があり, 15)近年ではほとんど行われていない. SENJUで得られる高分解能の中性子回折データを用いることでX-Ndeformation density mapが再び現実的な実験手法として用いられ,より精度の高いcharge density analysisに繋がることを期待したい.3.3有機結晶の磁気構造解析に向けて水素原子をはじめとした軽元素の観察に加え,主に物性物理の分野で中性子回折が多く用いられるのが磁気構造日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)の解析である.中性子はそれ自身がスピンをもっており,磁気スピンすなわち結晶中の不対電子によって散乱される.この際,中性子のスピンと磁気スピンが平行(↑↑)か反平行(↑↓)かで散乱長が異なるため,結晶中の磁気スピンの向きが周期性をもつ場合(強磁性,反強磁性,フェリ磁性等)にはそれぞれの磁気スピンで散乱された中性子同士が干渉して回折現象を起こし,磁気反射として観察される.強磁性体の場合は磁気スピンの周期性が結晶格子の周期と同じのため,磁気反射は原子核由来のブラッグ反射(核反射)と重なって観察される.一方,反強磁性の場合は磁気スピンの周期性が格子の周期の2倍となるため,核反射の間に磁気スピンのみに由来する反射が観察される.また,入射中性子としてスピンの向きを1方向のみに揃えた偏極中性子を用いると,核反射と磁気反射が重なった場合でも磁気反射の強度のみを求めることができる.磁性体の研究では中性子のこのような特徴を利用した磁気構造解析が数多く行われており, SENJUでもこれら磁性体の研究に必要な超伝導マグネットや希釈冷凍機の整備を進めている.磁気反射は核反射に比べて強度が小さいことが多く,また偏極中性子を生成する際にビーム強度が元の半分未満になってしまう.そのため中性子磁気構造解析の対象は格子定数の小さい無機結晶に限られがちである.しかし,偏極中性子を用いた分子結晶の磁気構造解析では分子内の不対電子の分布が得られるため,例えば分子性ラジカルや有機磁性体の研究においては強力な解析手法となり得る. 16) SENJUでも数年後を目標とした偏極中性子を使った実験環境の整備を進めており,その際にはMLF305