ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

大原高志図4 SENJUで測定した結晶サイズ0.1 mm 3のタウリン単結晶からの回折パターン.(Diffraction image of a 0.1 mm 3taurine single crystal measured at SENJU.)(左)本測定時に用いた31台の二次元検出器(円筒形配置)を平面上に展開したもの(底面の1台は図から省略).(右)検出器上の四角で囲った領域のTOFプロファイル.図5SENJUで測定した回折データを用いた構造精密化によって得られたタウリンの結晶構造および分子構造.(Crystal packing and molecular structure oftaurine obtained by SENJU.)図6SENJUの低温測定用fixed-χ型2軸ゴニオメーター付き4 K冷凍機.(4 K cryostat with fixed-χtwoaxesgoniometer for SENJU.)当な値が得られており, 0.5~1.0 mm 3サイズの有機結晶についてはほぼルーチンで測定できると言える.これらの測定を行った際のJ-PARCの加速器出力は最大で260 kWであったが,これが1 MWに増強されればさらに小さな単結晶,あるいはさらに短時間での測定も可能になるであろう.3.2低温環境下での中性子構造解析第1項で述べたとおり,従来に比べて一桁小さい単結晶を用いた中性子構造解析が可能になると,最大のボトルネックである単結晶調製のハードルは大きく下がることになる.これまでは測定したい試料では十分な大きさの単結晶が得られず,類似の性質をもつ誘導体の中から大きな単結晶が得られるものを探索するかあるいは測定を諦めてしまうということが多々あったが,測定に必要な単結晶の微小化により測定したい試料そのもので単結晶中性子構造解析を行える可能性は大きく増すことになる.しかし,試料結晶のサイズが小さいことによるメリットはこれだけではない.試料結晶のサイズが小さいと結晶に対して外場をかけることで誘起される相転移や化学反応,準安定化学種の生成が単結晶状態を保ったままで進行しやすくなるため,プロトン移動をはじめとした結晶中における分子,原子の動的挙動を中性子構造解析で観察することが現実的なものとなる.外場の中でも特に中性子回折測定で頻繁に用いられるのが,クローズドサイクル型冷凍機を用いた低温環境下での測定である.中性子は物質に対する透過性が高いため,試料をアルミニウムの容器で覆うクローズドサイクル型の冷凍機を使うことで試料の温度を容易に10 K以下まで下げることができる.図6にSENJUで用いているfixed-χ型2軸ゴニオメーター付き4 K冷凍機を示す.この冷凍機ではゴニオメーター用のモーターとして真空・低温雰囲気下で稼働するピエゾローテータを用い,コールドヘッドとゴニオメーターヘッドの間をヒートパスとなる銅線で繋ぐことで,試料の冷却と2軸の駆動を両立させている.試料温度は約3.5 Kまで下げることができ,室温から最低温までは約4時間半で到達する.ある有機結晶の4 Kでの測定によって得られた回折パターンを図7に示す.この試料結晶は4.0×1.5×0.2 mmという大きさで, 1方位3時間の露光で14方位分のデータを測定し,構造解析用のデータが得られた.冷凍機を用いた測定ではダイレクトビームパス上に輻射シールドがあるため室温での測定に比べてアルミニウム由来のバックグラウンドが若干増えるが,単結晶回折測定では大きな支障にはならない.現在, SENJUでの4 Kまでの回折測定は,室温での測定同様にほぼルーチンで行うことが可能である.このような極低温領域での回折測定は光照射などに304日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)