ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

い特集:化学分野における結晶学-化学結晶学の“現ま在日本結晶学会誌56,301-306(2014)”を切り取る-J-PARCの大強度中性子を用いた結晶化学の新展開独立行政法人日本原子力研究開発機構J-PARCセンター大原高志Takashi OHHARA: Recent Advance of the Neutron Crystal Chemistry by using HighIntensity Neutron Beam at J-PARCEven though the single crystal neutron diffraction technique is one of the most powerfulmethods to observe hydrogen atoms in molecular crystals, the necessity of a large single crystalhas been a serious bottle-neck of this technique. Recently, author and co-workers constructed anew TOF-Laue single crystal neutron diffractometer, SENJU, at J-PARC/MLF. Neutron structureanalysis of a 0.1 mm 3 taurine single crystal by using SENJU showed that single crystal neutronstructure analysis of a sub-millimeter size molecular crystal is feasible in realistic beamtime.In addition, diffraction measurement of a small crystal with 4 K cryostat and other sampleenvironment devices at SENJU will make several types of“theoretically possible”experimentsin the field of crystal chemistry, such as observation of metastable species or visualizationof spin electron density by neutron diffraction,“practically possible”.1.はじめに今年は世界結晶年ということで結晶学の黎明期におけるさまざまな歴史的エピソードが紹介される機会が多い.そこで中性子回折の黎明期に目を向けてみると, 1932年のChadwickによる中性子の発見1)から4年後の1936年にはvon Halban & Preiswerkによる鉄の粉末中性子回折2)および, Mitchell & Powersによる酸化マグネシウムの単結晶中性子回折3)がそれぞれ報告されている.このうちMitchell & Powersによる実験では,(2 0 0)反射を観察するために8×25×44 mmという巨大な単結晶を実に16枚並べており(したがって正確には“単結晶”ではない),結晶構造解析という点からはとても実用的ということはできなかった.しかし,その後の原子炉を中心とした中性子源の発展,さらには中性子イメージングプレート4)をはじめとした検出器の発展によって必要とされる単結晶試料のサイズは徐々に縮小し,それに伴い単結晶中性子構造解析はX線構造解析を補完する実験手法としてその存在価値を高めてきた.X線が原子の持つ電子によって散乱されるのに対し,中性子線は原子核によって散乱される.加えて,各原子の中性子に対する散乱能はほぼ同じオーダーの大きさとなる(図1).そのため中性子構造解析は水素原子をはじめとした軽元素の観察に威力を発揮し,結晶化学の分野においては金属ヒドリド錯体中の水素原子やディスオーダーした水素原子などX線構造解析では観察が難しい水素原子を確実に観察するための方法として, 5)さらには水素原子と日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図1各原子のX線に対する散乱因子および中性子散乱長の比較.(Comparison of X-ray scattering factorand neutron scattering length for each atoms.)重水素原子といった同位体を識別できることを利用して結晶相反応に伴う水素の移動を追跡し,反応機構を解明するということにも用いられている. 6)しかし,黎明期ほどの巨大単結晶は必要ないとはいえ,単結晶中性子構造解析において大きな単結晶の調製は現在でも大きなボトルネックである.単結晶X線構造解析では実験室系の回折計を用いても数十μmサイズの単結晶で構造解析が可能なのに対し,国内での研究用原子炉JRR-3での単結晶構造解析では数mm角の単結晶を調製する必要がある.これは多くの分子性結晶にとっては非現実的なサイズであり,単結晶試料の調製を試みる前に構造解析を断念してしまうケースも多々あった.このため,現301