ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

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概要

日本結晶学会誌Vol56No5

放射光X線による結晶構造解析の実際と展望ルを用い,結合に関与する価電子には多極子展開モデルを用いて解析を行う. 4)また,近年,コンピュータの発展に伴い,かつては現実的な計算時間ではなかった波動関数に基づいた電子軌道を分子モデルとして解析を行う波動関数モデル法によるHirshfeldの密度解析が注目を集めている. 5)さらに,情報エントロピーが最大である解が最も平坦な電子密度分布として解析を行う最大エントロピー法による解析は,フーリエ逆変換の式を使わないため,打ち切りに効果の影響が少ないという利点により幅広く使われるようになった. 6)最大エントロピー法による解析では,与えた結晶構造因子の値に対して,その誤差の範囲内で一致する結晶構造因子より求められる電子密度分布の中で,最も情報エントロピーが大きなものを解として求めている.したがって,精度の高い結晶構造因子の誤差を見積もるために,非常に明るく安定したX線での実験が必須となる.結晶化学における精密構造解析の詳細については,本特集号に橋爪大輔氏が執筆されているので,そちらを参照していただければ幸いである.ムサイズにすることによって空気散乱の軽減を図ることができ,結果的にS/Nの良いデータを観測することになる.サブミクロンスケールの微小結晶を扱う場合には,目視による試料位置が困難なため高倍率の顕微鏡システムや偏心誤差の非常に少ないエアベアリングステージなどを用いた高精度な回折計を準備する必要がある(図1).数十ミクロンサイズから粉末粒子1粒の微小結晶を扱う場合には,高倍率の光学顕微鏡とマニピュレーターにより,結晶をガラスキャピラリーや結晶マウントツールの先端に取り付ける(図2).バルク試料からの微小結晶の取り出しには,試料を樹脂に埋め込み研磨して,結晶面が現れた領域を集束イオンビーム装置により切り出すことによって微小結晶として測定することも可能である.系統的な微小結晶構造解析では,強誘電体で知られるBaTiO 3のように結晶サイズによって物性が変化する物質のサイズ効果に関する研究が行われている.また,ダイヤモンドアン3.放射光による微小結晶構造解析近年,単結晶X線回折装置は,実験室でのタンパク質構造解析の発展により,微小点X線光源,集光型多層膜X線ミラー,高感度・低バックグラウンド検出器の組み合わせにより著しく性能が向上してきた.その結果,結晶化学の分野においても,実験室で測定可能な結晶試料のサイズが数十ミクロンにまで至っている.また,微小結晶の集まりである粉末試料においても,粉末回折データから未知構造解析を行う手法の発展が著しく,多くの研究成果が報告されている.しかしながら,粉末試料からの未知構造解析は,三次元の結晶構造の情報が一次元の粉末回折データに次元性を落とした状態で集約されているため,構造モデルの任意性が生じてしまう点に難しさが残っている.一方,放射光利用による微小結晶構造解析は,すでに1980年半ばから行われているが,その高輝度,かつ平行性の高いX線を集光することによりサブミクロンスケールの微小結晶構造解析が比較的容易に行われるようになった.放射光を用いて微小構造解析を行う最も大きな利点は,微弱な回折強度を精度良く観測できることである.偏光磁石ビームラインは,高エネルギー(低波長)X線を用いることができ,分光結晶のサジタル集光やX線ミラー集光によりX線輝度を上げることによってミクロンスケールの微小結晶構造解析が可能である.一方,第3世代光源のアンジュレーターからのX線は,偏光磁石ビームラインより100~1000倍以上の明るさを有するが,さらにフレネルゾーンプレートやK-Bミラーを用いることにより,ビームサイズを数ミクロン~サブミクロンの領域に集光することが可能である.このような集光技術は,微小結晶からの回折強度を増加させるだけでなく,試料のサイズと同等のビー日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)図1 SPring-8のBL40XLに設置されている微小結晶構造解析装置. 7)(Photograph of the high-precision diffractometerat BL40XU/SPring-8.)ω軸には偏心誤差が±100 nm / 360°のエアベアリングステージが使われている.図2(1?x)BiFeO 3?xPbTiO 3の微小結晶のSIM像.(SIM imageof submicron single crystal of(1?x)BiFeO 3?xPbTiO 3.)ガラスキャピラリーの先端の赤丸点線内に微小結晶が接着されている.297