ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No5

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日本結晶学会誌Vol56No5

い特集:化学分野における結晶学-化学結晶学の“現ま在日本結晶学会誌56,296-300(2014)”を切り取る-放射光X線による結晶構造解析の実際と展望(公財)高輝度光科学研究センター杉本邦久Kunihisa SUGIMOTO: Advanced Crystal Structure Analysis Using Synchrotron X-rayRadiationSynchrotron X-rays are very suitable for advanced crystal structure analysis in materialscience. In fact, many scientists carry out various experiments in order to understand physicaland functional property. Extremely, charge density study, submicron single crystal diffractometry,operand structural study of single crystal and poly-crystals, and time-resolved experimentshave been actively engaged in research on the structure analysis in order to elucidate theassociation between functional properties and crystalline structures. Here, I report currentresearch and future outlook of structure analysis using synchrotron X-rays.1.はじめに1913年にヘンリー・ブラッグとローレンス・ブラッグの父子がNaClの結晶構造を決定したときより,およそ100年が経過した.その後,現在に至るまでハード的にはX線の発生装置,集光技術,検出器開発は絶え間なく進められ,その性能は格段に発展してきた.一方,ソフト的にも位相決定に直接法が実用化されて以来,コンピュータの飛躍的な高速化によって計算時間が短縮され,かつコンピュータグラフィクスの発展により分子構造の三次元描画がより簡便になった.その結果,物質研究を推進するうえで, X線構造解析は,欠くことのできないキャラクタリゼーションの手段の1つになったと言える.さらに,放射光利用による実験がより身近になった現在では,実験室では解析することが困難であった微小結晶を用いた研究が可能となった.第3世代の大型放射光施設が発生するX線は,実験室のX線発生装置(回転陽極X線管)に比べ,偏向電磁石でも100万倍,アンジュレータ(通常4.5 mのもの)からの光は, 10億倍もの明るさがある.さらに,放射光X線の特徴である,パルス光は,サブナノ秒のパルス幅を有するため,光,電場,磁場などによる励起,遷移,準安定状態の動的な構造をX線回折・分光のプローブによって直接的に観察する時間分解(ポンプ-プローブ)実験が可能である.現在,放射光利用により展開される結晶科学の先端研究としては,1.精密構造解析2.微小結晶による構造解析3.オペランド測定による励起,準安定状態の構造解析4.粉末X線回折による未知構造解析とオペランド測定などが主に推進されている.本稿では,物質研究での放射光利用による結晶構造解析を中心に実際と展望を述べる.2.放射光による精密構造解析物質研究を行う上で,多くの場合,結晶内の原子・分子間距離や角度により,その物性との相関を議論されているが,さらに電子密度分布にまで踏み込むことにより,より詳細な化学構造の情報が得られる.例えば, C?C結合の結合次数の差を可視化することも可能である. 1)つまり,精密構造解析は原子核の位置ばかりでなく,核外電子の分布や原子の熱振動に至るまで,かなり詳細な情報を与えるので,化学結合の本質を明らかにする重要な研究手段の1つと言える.最近では, X線回折装置の発展により,精密構造解析はより身近になりつつあるが,非常に統計精度の高い回折データを必要とするため,多くの場合,放射光利用による回折実験が実施されている.その理由として,放射光X線の安定した明るさだけでなく,実験条件に応じてエネルギーを選択できる点である.精密構造解析では,特に高エネルギー(短い波長)のX線を用いることで,試料による吸収の効果を軽減できるだけでなく, q空間での高分解能な測定が可能となる.つまり,高エネルギーX線を用いることにより,広範囲の逆格子空間を精度良く測定することができ,原子間の距離・角度だけでなく,実験的に得られた電子密度分布のトポロジカル解析により見積もられる結合状態や静電ポテンシャルなどから分子内・分子間相互作用を議論することができる. 2),3)精密構造解析の手法としては,多極展開法,波動関数モデル法,最大エントロピー法などが最もよく使われている解析法である.多極子展開法は,分子モデルの内殻電子には自由原子モデ296日本結晶学会誌第56巻第5号(2014)