ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

AsCA’13 Hong Kong参加記な雰囲気をもつすばらしい会でした.機会があればまた参加させていただこうと思います.AsCA2013参加報告(計測分野)吾郷日出夫(理化学研究所)昨年12月7日から10日にかけて香港科技大學にて開催されたアジア結晶学会のアカデミックプログラムは, 3つの全体講演, 4つの基調講演, 2つ3つが同時進行する18のマイクロシンポジウム(107演題),ポスターセッション(161演題)で構成され, X線を使った物質研究について幅広い分野の講演があった.私がSACLAのフェムト秒X線パルスを活かした放射線損傷のないタンパク質X線結晶構造解析の実験に参画していることもあり, X線自由電子レーザーにかかわる講演とタンパク質X線結晶構造解析の新しい手法の講演からいくつか紹介したい.米国のLCLSとわが国のSACLAは,硬X線領域のX線自由電子レーザー(XFEL)を発生する施設で,それぞれ2009年と2011年のファーストライト以降,多様な分野への応用が図られている.アジア結晶学会では, 3日目に“X-ray Free Electron Laser(XFEL)”と銘打ったマイクロシンポジウムが北海道大学の西野吉則さんとKoreaAtomic Energy Research InstituteのHyunjung Kimさんが座長となって催された.メルボルン大学のAndrew V. Martinさんから, XFELのフェムト秒X線パルスと結晶を構成する分子の相互作用に関して,たいへん興味深い実験結果と考察が発表された. C 60分子の粉末結晶に,非常に強力なフェムト秒X線パルス(ビームサイズ100 nm×100 nm,発光時間40フェムト秒)を照射すると,通常の放射光や10%程度に弱めたXFELのフェムト秒X線パルスでは観察されない回折点が観察される.そして,この異常な回折が起こる仕組みとして, XFELの非常に強力なフェムト秒X線パルスに照らされた結晶中の多数のC 60分子が一気に光電効果を起こし,始めはC 60分子の上にバラバラな向きで生じた電子分布の偏りが,フェムト秒の時間スケールで原子位置の変化を伴うことなく静電相互作用によって広範囲に配向し,新しい周期構造を作るというメカニズムが提案されていた.フェムト秒の時間スケールで発生し,しかも結晶構造として観測にかかる秩序だった構造が生じるという点は,大きな驚きであった.タンパク質X線結晶構造解析の場合,放射線損傷は主として光電効果の結果生じる反応性の高い分子のタンパク質に対する攻撃という,フェムト秒の露光時間に比べてはるかにゆっくりとした事象に起因するし,クーロン爆発を考えたときにも生じる構造変化は結晶中でランダムになるので,フェムト秒の露光時間の結晶構造解析ではタンパク質分子の有意な放射線損傷は観日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)察されないであろうと考えられている.しかし,そういった常識の背景にある, XFELのフェムト秒パルス光と物質の相互作用のあり方について,これからどんどん新しい現象が見出されていくのではないかと感じさせられた.また,同じマイクロシンポジウムで,内部構造を非破壊的に観察できる電子顕微鏡にない特徴をもち, XFELの有力な応用分野の1つとして考えられているコヒーレントX線回折実験(CDI)について,ゼオライト結晶の焼結温度依存的な内部構造の違いを既存の放射光を使ったCDIで観察した報告があった.シンガポール大学/SLACのN.Duane Lohさんからは,試料の入射系としてエアロダイナミックレンズと組成解析のための質量分析計を備え,粒子1つ1つの高効率な精密解析を目指した回折計と,ノイズが多く不完全なX線散乱データから三次元像を再構成するための方法論について紹介があった.ディスカッションでは,水和の影響がある生体高分子の三次元再構成での,観察対象の構造の均一性についての考え方や,弱い散乱シグナルとノイズをいかにして判別してヒットフレームを探すのかなどの具体的な課題について議論があった.SACLAについてJASRIの城地保昌さんから,生体試料の構造解析に重点を置いた講演があり,マイクロメートルサイズの結晶から効率よくデータを収集するシリアルフェムト秒X線結晶構造解析装置の測定チャンバー,検出器,試料インジェクターなどの開発状況について,リゾチームやソーマチンなどのデータ測定と構造解析の実施例を添えた詳細な報告があった.また,生体試料のCDIで使われる装置についても紹介があり,座長の西野さんらの研究グループが開発した試料封入セルを使って記録した生きた細菌のX線散乱像が紹介された.今回のAsCA2013では残念ながら講演がなかったが, SACLAでこの試料封入セルを使用した細菌のCDIの成果は,本年1月にNaturecommunicationsで発表されている(T. Kimura, et al. Naturecommunications DOI: 10.1038/ncomms4052).また膨大な散乱像から三次元の構造を再構成するための京コンピュータとの連携についても紹介があり,単粒子からの三次元再構成に向けたシステムづくりが進んでいることが述べられた.タンパク質結晶構造解析の手法では, CCP4とMRCのグループが講演したタンパク質X線結晶構造解析の可能性を広げる新しい手法が,すぐに実際に使えるという点で興味を引いた. CCP4のRonan Keeganさんからは, abinitioモデリングやNMR構造を利用して分子置換法のサーチモデルを精度よく構築し,分子置換法適応の可能性を広げるプログラムAMPLEについてお話があった.取り扱えるアミノ酸残基の上限は120残基程であるが,テスト計算では試行の43%で分子置換に成功しているようであった.特にαヘリックス含有率が高い場合に威力を発揮するとのことであった. MRCのAndrea Thornさんからは,67