ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

AsCA’13 Hong Kong参加記tion refinementと呼ばれる解析が紹介された.測定された構造因子になるべく一致するように制約をかけながら第一原理計算を行い,実験的に得られる電子密度分布を最も良く再現する波動関数を求めるというものだった.得られる密度分布の再現性に関してMultipole refinementとの比較が紹介され, X-ray wavefunction refinementの優位性が示されていた.現状では,計算コストがmultipole refinementに比して数倍大きく,適用可能な系も低分子化合物に限られるが,今後の発展が期待されるものであった.午後の“Neutron Diffraction”のセッションでは韓国HANAROで稼働を始めた中性子二次元検出器を用いた単結晶構造解析装置やオーストラリアANSTOの中性子Laue回折計KOALAの紹介があった. HANAROの単結晶構造解析装置はほとんどの調整を終了し,高い精度での構造解析がすでに可能となっていた.また, KOALAはLaue回折計ではあるが,こちらも高い精度での構造解析の結果が紹介されており,非常に興味深かった.3日目午前の“Charge Density and Electron Diffraction”のセッションでは,熱電材料として注目されているクラスレート物質の静電ポテンシャル解析の結果が報告された.イオンサイズや籠のサイズだけではなく,静電ポテンシャルも加味したラットリングイオン周辺の実効的な自由空間と熱伝導度との相関が示された.“Magnetic andConductive Materials”のセッションでは,大きなスピン相互作用を実現するための物質設計に関する研究が発表された. Radicalな分子の孤立電子を介して磁性イオン間の相互作用を実現し物質設計を行った話は興味深かった.また,パラジウムの水素吸蔵特性に関する講演では,ナノ粒子化することによりエンタルピーとエントロピー変化のバランスが変化し,水素吸蔵特性が上がることが示された.「エントロピー変化の減少はナノ粒子内の構造の乱れによると推測される」と, Banquetの際に講演者に教えていただいた.新たなLiイオン伝導体に関する報告では,中性子粉末構造解析によるLiの伝導経路も含めた構造の詳細が報告された.もう一件,低次元量子スピン系の磁気構造に関する報告があった.このセッションのほかの講演とは少し毛色の異なるテーマではあったが(というより,これが一番いわゆる物理の講演であった),講演者が丁寧に説明をしてくれたため,一次元フラストレーション系の良い勉強になった.実は,この“Magnetic and ConductiveMaterials”のセッションは,私がCo-Chairとなっており,セッション後半の座長を務めさせていただいた.自分がCo-Chairであることを前日にプログラムを見て知り,セッション会場に入ってから座長を任されたため何の準備もしておらず,至らない座長となってしまった.この場を借りてお詫びしたい.全体を通しての感想としては,毎回感じたことだが,やはり生体物質関連の研究発表が大多数を占めており,いわ日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)ゆる物理(固体物理)に関する発表はminorityであった.約60件のポスター発表のうち物理に関するものは両手で数える程度しかなかったのではないだろうか.特に,磁性体に関するものがほとんどなく,磁気構造解析の結果などが今後もっと出てきたらと思う.最後に,その他の活動としてSocial eventが2回あった.1つは2日目の夜の夜景を見ながらのHarbor Cruiseであり(sponsored by Bruker), 100万ドル(?)の夜景を見ながらの海上散歩はさすがに綺麗だった.クリスマス近くということで,クリスマスカラーのイルミネーションも多く見られた(中国語で「メリークリスマス」は「聖誕快楽」と言うらしい). 2つめは, 3日目の夜の海上レストラン(Jumbo Kingdom)でのBanquetであった(sponsored byRIGAKU).魚介類を中心とした高級中華料理とワインを楽しんだ.なお,本原稿の依頼はこのBanquetの際に受けたものである.世界中どこに行っても,お酒は仕事を潤滑に進めるようだ.AsCA’13に参加して~材料化学者の立場から~(化学分野)山内美穂(九州大学カーボンニュートラルエネルギー国際研究所)私は, 2001年につくば市のKEKでの粉末回折測定を行ったのを皮切りに, 2004年からは兵庫県のSPring-8での実験を始め,以後,十数年間,放射光施設の利用を継続しています.研究対象は直径が数~数十ナノメートルの金属粒子です. 1 Lのフラスコを使った1回の合成実験から数十mgのナノ粒子試料しか得られないため,実験室にある装置を利用したXRD測定には2時間ほどの積算が必要となります.また,得られる回折ピークはブロードであり強度も弱いため,ナノ粒子の構造を正確に把握するのは困難でした.一方,放射光を使った測定では,ガラスキャピラリーにつめたほんの少量の試料に数分間X線を照射するだけで統計精度の高いデータを得ることができます.KEKのBL1Bで, IPからPCに転送されてきた回折データを初めて目にしたときには本当にびっくりしました.それに味をしめ, 1日当たり90本近くの試料の回折測定を行うこともありました.現在では,放射光施設での測定結果を抜きに私たちが研究を進めることはできない状況となっています.しかしながら,結晶学に関連する学会には一度も参加したことはなく,今年のAsian CrystallographicAssociationの会議(AsCA’13)への参加が初めての経験となりました. AsCA’13は12月7日から始まりましたが,私は,直前までラスベガスで開催されていた学会に参加していたため, 12月8日に香港に入りました.九州ではPM2.5のために視界が悪い日があり,そのような場合にはマスクを付けて外出します.香港の空港に立つとそれは福岡の比65