ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

AsCA’13 Hong Kong参加記図3ZnI 2HTPHAP(3)の結晶構造成功し,単結晶X線構造解析を行った. HTPHAPがヨウ化亜鉛に配位結合することで一次元鎖を形成しており,それぞれの一次元鎖がHTPHAP間の水素結合によって二次元シートを形成していた(図3左).さらに二次元シートがHTPHAPのπ-π相互作用によってスタッキング構造を形成し(図3右),細孔を有さない最密な構造であることが明らかになった. HTPHAPと比べて相互作用性の低いTPTとヨウ化亜鉛による細孔を有するサドル型ネットワークとは異なり, HTPHAPの多点相互作用性によってより充填された構造を形成したと考えられる.気相成長ネットワーク形成では溶媒和効果がないために,ネットワーク形成は純粋に配位子の相互作用性と金属の配位性に依存すると考えられ,液相によるネットワーク形成よりも配位子の相互作用性がより反映されることが実証された.次に, TPHAP ?の多点相互作用性を比較するために液相での結晶化を行った.気相結晶成長とは異なり,液相では溶媒和効果のため,配位子と溶媒分子間に弱い分子間相互作用が働く.そこで,溶媒がネットワーク形成に及ぼす効果を調べるため,さまざまな溶媒による結晶化を行い,同じ組成式ZnI(TPHAP)で表されるが異なるネットワークトポロジーを有する結晶が4種類得られた(図4,[ZnI(TPHAP)]3.5CH 3OH(4),[ZnI(TPHAP)]3PhOH2CH 3OH(5),[ZnI(TPHAP)]5PhOH 2.5CH 3OH(6),[ZnI(TPHAP)]2PhNO 2 6CH 3OH(7)). 4と5は同じ二次元シート構造であるが, 4は2つのシートが相互貫入型の層を形成しているのに対して, 5は非相互貫入型の層構造を形成した. 4は非芳香性のDMFから得られたためDMFとTPHAP ?との間に相互作用はなく,π-π相互作用がTPHAP ?間でのみ存在するため,相互貫入型の構造を形成した.一方で, 5は芳香性溶媒フェノールを含んだ溶液から得られたため,フェノールとTPHAP ?の間でπ-π相互作用が働き, TPHAP ?とTPHAP ?の間にフェノールが取り込まれることで相互貫入型の構造の形成が避けられた.また,フェノール割合がより高い溶液から異なる結晶6が得られた.フェノールとTPHAP ?間でπ-π相互作用よりも水素結合が強く働くことで, 5とは異なる三次元立体的に広がったネットワークを形成した.すなわちTPHAP ?が溶液内の弱い分子間相互作用のわずかな違いを認識している.日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)図4ニトロベンゼンを含んだ溶液から2種類の細孔を有するネットワークの結晶7が得られた.それぞれの細孔はヨウ素あるいはTPHAP ?のπ共役面で囲まれている.π共役面で囲まれた空間はニトロベンゼンが二重層を形成して取り込まれており大きな細孔を形成している.われわれはこの空間にペリレンのような芳香族化合物やπ共役系を有するレチナール分子を選択的に取り込んだ.すなわち,TPHAP ?によってπ共役面で囲まれた機能性配位空間の設計に成功した.それぞれのネットワークの構造的特徴がTPHAP ?と溶媒分子間で働く弱い分子間相互作用によって合理的に説明された.本発表では4種類のネットワークについてのみ報告したが, TPHAP ?を用いることで溶媒の種類に応じて計7種類の異なるネットワークの形成に成功している. 4)TPTを用いて液相から得られるネットワークの数が3種類なのに対してその種類が多く,まさにTPHAP ?の多点相互作用性を示している.ZnI(TPHAP)ネットワーク本研究は,配位子の相互作用性が気相成長および液相成長による配位性ネットワーク錯体の形成に及ぼす効果を明らかにした.特に,気相成長による配位性ネットワーク形成はこれまでにない新しい手法であり,熱力学的に安定な構造を与えた.溶媒和効果がないために配位子の相互作用性が反映されやすい.すなわち,弱い分子間相互作用の制御に着目した分子設計に基づいた気相中のクリスタルエンジニアリングの実現の可能性を秘めている.しかしその配位子の相互作用の強さゆえ,細密な構造を形成する傾向にある.現在,細孔を有する配位性ネットワークを形成するために,分子設計に基づいた気相成長を検討中であり,近い将来報告する予定である.1)M. Kawano, T. Haneda, D. Hashizume, F. Izumi and M. Fujita:Angew. Chem. Int. Ed. 47, 1269 (2008).2)K. Ohara, J. Marti-Rujas, T. Haneda, M. Kawano, D. Hashizume,F. Izumi and M. Fujita: J. Am. Chem. Soc. 131, 3860 (2009).3)Y. Yakiyama, A. Ueda, Y. Morita and M. Kawano: Chem. Commun.48, 10651 (2012).4)T. Kojima, T. Yamada, Y. Yakiyama, E. Ishikawa, Y. Morita,M. Ebihara and M. Kawano: CrystEngComm 16 (2014) in press.61