ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

談話室AsCA_BanquetにてHKUSTのスタッフらとPerfluoroarene類の共結晶中での分子配列と分子間相互作用について調べ報告した.密度汎関数法によって求めたC 6H 6とC 6F 6の各単分子の静電ポテンシャルから一分子を四重極子と見立て,結晶構造中での分子配列を考察した.すると, C 6H 6とC 6F 6の各単結晶では,同符号に帯電した部位同士の分子間の静電反発が生じているのに対して,共結晶では正と負の部位が交互に入り組んだような分子配列が形成されていることを確認し,共結晶での安定性を説明した.彼らはさらにC 10H 8, C 14H 10, C 16H 10, C 18H 12と複合環を増やしていった場合のPerfluoroarene類との共結晶構造についても検討を行っており,系統立った結果が出ている点で非常に興味深い内容であると感じた.またMS-8Dynamic Aspects of Crystalsでは伊藤肇先生(北海道大学)による手品のような単結晶のMechanochromism現象に関する発表や,植草秀裕先生(東京工業大学)によるPorousMolecular Crystalに関する発表など,日本の先生方による分子性結晶の研究事例が印象に残った.ポスターセッションでは,掲示場所が3フロア程に分かれていたこともあり,少し発表を見るための移動が面倒であったが,それぞれに2時間程の発表時間が用意されていたおかげで生体物質などの異分野のものも含めて多くの発表を見ることができた.自分の発表にも,ポスター審査員のProf. E. R.T. Tiekink(Univ. Malaya)のほか,日本やインドの研究者が訪れた.しかし,同時刻にCambridge Structural Databaseのワークショップが重なっていたせいか人が少なかったように思うし,自分もこのワークショップに参加できず少し残念であった.学会の全体として,弱い分子間相互作用を基本とした有機分子性結晶に関する研究の発表が少ないように感じた.有機電子材料などの応用分野では,結晶性固体の状態での分子配列が特に重要であるし,結晶構造を特徴づける未知の分子間相互作用や置換基効果などの要因に強く興味がもたれる. AsCAの場でも,そのような分子性結晶の構造や特性に着目した議論がもっと行われると良いし,自分もそのための研究の一端を担いたいと感じた.その他,スポンサー企業による展示やランチミーティング,ワークショップも充実しており最新の技術の情報を得られた.1人でいるがゆえ,多くの研究者や企業の方と新たな面識を得ることができた.流暢ではない英語を必死で使いながらも,各国の方と意見や情報を交換できる成功体験を積むことで語学に対する少しの自信とさらなる大きな学習意欲を得られたと思う.朝, 1人で入った香港飲茶店での体験と点心の味もまた格別であった.最後に,学会を通じて交友を深められたHKUSTの学生たちの学会運営における働きが素晴らしかったことに触れる. Prof. I. D. Williamsの指導を受ける彼らは全員英語を流暢に操り,参加者の要望に迅速に対応しながら猛烈な働きを見せていた.日本で学会を開催した場合に,果たしてわれわれ日本の学生は彼らほど役に立つだろうか.先日,国内の新聞で取り上げられていたが, HKUSTでの講義はすべて英語,さまざまな大学の世界ランキングにおいて日本の大学よりも上に位置している.話せばとてもフレンドリーなHKUSTの学生達,自分も彼らに負けないように研究と語学にいっそう取り組む意欲を得た.以上のような貴重な経験をご支援下さった日本結晶学会の皆様に心より感謝申し上げる.Interpretation of crystal structure in two series of bisazomethine dyes神藤拓実1 , Byung-Soon Kim 1 , Young-A Son 2 , Sung-Hoon Kim 3,4 ,松本真哉11横浜国立大学大学院環境情報学府, 2忠南大學校, 3慶北大學校, 4湛江范学院安定な結晶相で純粋なJ会合体を形成させることを目的として,ジアミノマレオニトリルと4-(ジアルキルアミノ)-2-アルコキシベンズアルデヒドからビスアゾメチン色素のいくつかの誘導体が合成された.本発表では,末端アミノ基部位にメチル基とエチル基を導入した各5種類のアルコキシ置換誘導体の結晶構造を比較し,結晶構造中に含まれるJ会合体様の部分配列に対して,末端アミノ基部位の違いが及ぼす影響を論じた.すべての誘導体の単結晶構造中で,分子が階段状に積層したJ会合体様の二次元の分子層が確認された.この二次元の分子層内で,末端にメチル基を導入した誘導体では,エチル基を導入したものよりも分子の積層軸が,分子短軸方向にわずかに傾いていた.この二次元配列の違いの要因を調べるため,結晶構造中での近接分子間の距離と角度の測定と,格子エネルギー計算を行い,誘導体間で比較した.その結果,末端基の違いによらずすべての誘導体の結58日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)