ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

AsCA’13 Hong Kong参加記く機会に恵まれ,研究や学会についてじっくり考えるきっかけをいただきました.旅費および滞在費の支援をとおして,このような貴重な経験をさせてくださった日本結晶学会の先生方に深く感謝申し上げます.Crystal structure of photosystem I complex from Synechocystis sp. PCC6803河合(久保田)寿子1 ,和田元2 ,栗栖源嗣11大阪大学蛋白質研究所, 2東京大学大学院総合文化研究科生命を特徴付ける炭素,窒素,硫黄などの元素は,大気や海洋中に最も酸化された二酸化炭素などの無機酸化物として存在している.これら無機酸化物は,光合成生物によって還元・同化され糖などの有機物となることで初めて生物が利用できる形となる.この還元・同化に必要な強力な還元力をもつ電子は,光化学系I(photosystem I:PSI)という色素タンパク質超分子複合体によって生み出される. 2001年に好熱性藍藻Thermosynechococcus elongatus(T. elongatus)のPSI構造が2.5 Aにて報告された.それにより電子伝達を担う成分やアンテナクロロフィル分子が12種類のタンパク質骨格に適切な距離と配向をもって配置されている様子を捉えることができた.藍藻Synechocystis sp. PCC6803(Synechocystis)は光合成生物の中で最初にゲノム情報が決定され,光合成研究に最もよく使われているモデル生物である.これまでT.elongatusとSynechocystisのPSIにはタンパク質や脂質組成に違いがあることが報告されてきた.私はこれまで蓄積されてきた生化学的な知識を構造的に検証し,さらに構造と機能の相関を理解することを目的としてSynechocystisを用いてPSI三量体のX線結晶構造解析を行い5.1 Aで構造を決定した.そして, PSI内部にて電子伝達を担う3つの鉄硫黄クラスターF X, F A, F Bの位置やT. elongatusとSynechocystisのタンパク質サブユニットの比較などについて報告した.~初の単身での国際会議参加を終えて~神藤拓実(横浜国立大学大学院環境情報学府)2013年もAsCAの季節がやってきた.アデレードで開催されたAsCA’12に続き,私にとっては2度目の参加であったが, 1度目と大きく異なるのは表題のとおり,今回のAsCA’13が私にとって初めての単身での国際会議参加となった点だ.私の研究グループでは,有機色素の結晶構造の変化やそれによる固体物性の変化の解析を研究テーマとしており,例年であれば複数人でAsCAでの発表を目指す.しかし本年においては,近い時期に別の学会の予定もあったことから,指導教員やほかの学生の都合がつかず,私が1人でAsCA’13に参加する機会をいただいた.教員やほかの学生とともに国際会議に参加する場合,自分の発表に対しては全責任を負う一方で,会場でのコミュニケーション,空港やホテル,街中でのやり取りや何気ない会話,国境を跨げば,それらはすべて英語で…となってくると,隣にいる教員や英語のスキルが自分より高い人に頼ってしまうのが,日本人学生における多数派の姿である.しかし, 1人で渡航すればそうはいかない.英語を基本ツールとして,すべては自分の責任だ.まして今回,幸運にもこの報告書を書く機会に恵まれた私にとってみれば,自分から積極的に働きかけて多くの情報と経験を得て来なければならない.昨年のAsCA以上に自らの力と行動が試される状況に私の胸は躍っていた.日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)12月頭に自慢の祖父が急逝した影響で,直前の準備が不十分になってしまったが,初日のワークショップを終えたウェルカムパーティーの開始時刻を目標に,香港に降り立った.香港島北東部のMTR北角駅周辺で予約したホテルに荷物を置き,会場に向かう.最寄りのMTR坑口駅からは市バスに乗り込んだ.香港科技大学(HKUST)に向かう市バスは,海外からの旅行者にとっては利用が難しいと話に聞いていた.いざ乗車してみるとバス停で止まる表示もなく,運転手の方には英語が通じない.かなり大きな建物を1つ通り過ぎた時点でいてもたってもいられず,後ろの男性の乗客に, HKUSTに行くにはいつ降りたらよいか聞いた.彼が答えに窮していると最後部から,私たちはHKUSTの学生だから一緒に降りられるとの声.ほっと胸を撫で下ろし,会場に到着してからは学会終了まで不自由なく積極的に参加することができた.2日目以降の期間はすべての時間帯で,学会で用意されたセッションやワークショップ,ソーシャルイベントに参加した.有機分子を基本とした分子性結晶に関する内容では,MS-8 Dynamic Aspects of CrystalsとMS-17 Crystal Growthand Engineeringのセッションにおいて興味深い発表が行われた.個人的に特に印象に残ったのはMS-17 CrystalGrowth and EngineeringでのProf. Todd B. Marder(Univ.Wurzburg)による発表である.彼はC 6H 6とC 6F 6の結晶の融点がそれぞれ5.4℃と5.0℃であるのに対して,それらの共結晶の融点が23.7℃になることに着目し, Arene類と57