ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

ページ
64/92

このページは 日本結晶学会誌Vol56No1 の電子ブックに掲載されている64ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No1

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No1

談話室Thorn博士の発表が印象的でした.「近年,分子生物学や薬剤のターゲットとして膜タンパク質が注目されているが,往々にして結晶の質が上がらず電子密度も中~低分解能であることが多い.それでもこれらの構造は有益な情報を含んでいる.」と言うと彼女はCOOTとREFMAC5を利用して低分解能構造のモデル構築とリファインメントについて講演し,モデルにフィットする電子密度を見せてくれました.自身の低分解能構造を思い出し,どこか励まされる気持ちになりました.その他,構造生物学のどのセッションも非常に興味深く,多岐にわたる分野でタンパク質の構造解析が積極的に行われており,構造から生命現象を紐解く瞬間を垣間見ました.ポスター発表ポスター発表は偶数と奇数のグループに分けられ,それぞれ12/8と12/9の16:20~18:00の間に行われました.最も印象に残ったのはNational Taiwan UniversityのHsiang-Yi Wuさんの発表でした.彼女は,オルニチンからポリアミンを合成する代謝経路の律速反応を触媒する酵素,オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)とポリアミンにより誘導されるアンチザイム(Az)というタンパク質の複合体構造を解き明かし,いかにしてODC-Azが効率的に26Sプロテアソームによって認識され分解されるかについて考察しました.さらにNMRを用いた実験などで検証を行っておりその膨大な仕事量に「分担して実験したの?」と聞くと,彼女は全部自分1人だよと笑顔でこたえてくれました.また同じ大学のYing-Ren Wangさんはヒトのトポイソメラーゼ, DNAおよび抗癌剤の三者複合体結晶構造を解くことに成功し,抗癌剤がタンパク質のどのアミノ酸に作用して効果を発揮するかを証明しました.細菌感染や癌の治療へ貢献するインパクトのある仕事だと感じました.マルトースからトレハロースを合成する酵素の構造について報告したYang Miing UniversityのYu-Chiao Hsiehさんは,今後この構造を基に熱安定性が高く副産物のグルコースを産生しない酵素を作りたいと語ってくれました. WuさんもHsiehさんも笑顔でいきいきと説明してくれたのが印象的で,研究を楽しんでいる雰囲気に私も楽しくなりました.学会公式イベント12/8にはBruker, 12/9にはRigakuのランチョンセミナーがありました. 12/8の夜はBruker主催の香港クルージングに参加しました.港には深紅の帆を張った大きな木造船!木の床の軋む音がするノスタルジックな船に揺られ,ゆったりと一日の出来事を思い返しました. 12/9の夜はRigaku主催のディナーに参加しました.港に着くと小舟で移動です.海の向こうには,煌煌と輝く水上レストラン珍寶王國.極彩の色調で溢れる会場に圧倒されているとRigaku主催の水上レストランディナーにてChan先生とそのLabの5名, Kim先生が私と武藤さんの席もとったよと招いてくださり9人で円卓を囲みました.ポスター発表で仲良くなったWuさんもおり,ワインを飲みながらLabの様子,文化や生活,趣味などの話をしておおいに盛り上がりました.この学会で同年代の女性研究者Wuさんと友達になれたことは非常に嬉しいことの1つでした.何故学会を開催するのだろう滞在中と帰国後,日本結晶学会会長の坂田先生,庶務幹事の藤原先生,理化学研究所の西堀先生,蛋白質研究所の中村先生,中川先生,栗栖先生達とお話やお食事をする機会がありました.研究の話,スポーツの話,また研究室運営,学会運営などの話にもなりました.その中で最も心に残ったお話は,何故学会を開催するのかということでした.敢えてその意味を言葉にしようとすると,頭の中で自分自身につらつらと説明するもまとまりがわるい.そこに『研究は,人間がするからだ』と坂田会長の一言.研究者人生何十年の重みが感じられる,思いが濃縮された一言だと感じました.学会がなくても,研究発表,情報収集という点では世界中で共有できる‘論文’があります.査読というシステムのおかげで信頼もあり,旅費もかからず自分で好きなタイミングですべてのことが進みます.それでも,人は集まります.研究は人がするから,人が集まり直接目を見て会話をする,自分の渾身の成果を発表し,議論し,共有し,成長する.国籍も性別も年齢も関係なく,一緒に研究畑を耕して,技術や知識,経験を伝え,太陽のように大地のように若い芽を守り育てこそ,大輪の花が咲き立派な成果が実るのではないでしょうか.日本結晶学会は60周年を数年前に迎えました.また今年は結晶学が産まれてから100年目,世界結晶年の年です.この歴史の一端を担い,途切れることなく育て引き継いでいく世界中の先生方の大きな大きな背中を見た学会でした.AsCA2013に参加することで,自分自身の研究を見つめ直すとともに,同世代の研究者からたくさんの刺激を受けることができました.また,先生方とお話させていただ56日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)