ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

共結晶中に見られた安定な環状S 6分子の構造図3a軸から見たブロック状結晶のパッキング構造図(水素原子およびディスオーダーしたヨウ素原子は,見やすくするために省略.環状S 6分子はスペースフィリングモデルにより描画).(X-ray crystal packingof block crystal along the a-axis, illustratingthe space-filling model of cyclohexasulfur moleculesand hydrogen atoms and disordered iodine atomsare omitted for clarity.)π軌道が反結合性となっており,結果的に,電子の詰まり方がS-S結合距離に影響を与えていると考えられる. 19)ブロック状結晶中の環状S 6分子は, D 2h対称性を有した椅子型構造であり,量子化学計算においても最も安定な構造とされる. 20)この環状S 6分子のS-S間の平均結合距離は, 2.062 Aであり,これまで報告されている中性の環状S 6分子のS-S間結合距離とほぼ一致している. 21)また,環状S 6分子が中性分子であることを確認するために, ESR測定を室温で行った.本合成後の再結晶後のブロック状および針状結晶を完全に分離することが困難であったため,両者の混合物を用いた.その結果,有意なシグナルが観測されなかったため,ブロック状結晶中の環状S 6分子は,中性分子であると判断した.これまで知られていた環状S 6分子は, 2~3日で環状S 8分子および環状S 12分子へ分解することが報告されている. 22)しかしながら,本研究で得られたブロック状結晶中に存在する環状S 6分子は,少なくとも半年間は,安定に存在していることをX線構造解析により確認している.一方,針状結晶の結晶構造は,環状S 6分子を含んでおらず, dpdtiカチオンおよびヨウ素アニオンのみにより構築されていた.針状結晶中のdpdtiカチオンの分子構造は,それぞれN-C-S-S-Cの五員環の平面に対して2.89(5)°および2.08(6)°であり,ブロック状結晶中のdpdtiカチオンと同様に,ほぼ平面構造を維持していた.このことは,針状日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)図4ブロック状結晶中の環状S 6分子に近接する分子.環状S 6分子はスペースフィリングモデルにより描画し,環状S 6分子から隣接する原子間を点線で示した.(Close-up view of the surrounding of thecrystal packing structure of block crystal, illustratingshort contacts amoung cyclohexasulfur, dpdti,and iodine by dashed line.)表1環状S 6分子から隣接する原子間の近接距離.(Selected short contact distances among cyclohexasulfurdpdti, and iodine in block crystal.)Distance(A)Distance(A)S3…H4(a)2.9847(2)S4…H14(b)2.8371(2)S4…S2(b)3.5453(3)S4…I1(c)3.7657(2)S5…S1(e)3.5293(3)S5…I2A(d)3.6800(2)(a)-x,-y,-z;(b)-1+x, 1/2-y,-1/2+z;(c)-1+x, y, z;(d)-1/2+x, y, 1/2-z;(e)-1/2-x, 1/2-y,-z.結晶中のdpdtiカチオン分子のN-C-S-S-Cの五員環においても,正電荷が非局在化していることを示唆している.図3にブロック状結晶のパッキング構造の図を示す.また,図4にブロック状結晶中の環状S 6分子に近接する分子を示した.図3, 4中では,環状S 6分子をスペースフィリングモデルで描画している.表1に環状S 6分子から隣接する原子間の近接距離をまとめた.環状S 6分子は,自己集積化によって, dpdtiカチオン,ヨウ素アニオン・分子に取り囲まれて共結晶体を構築していることがわかる.また,環状S 6分子に近接するdpdtiカチオン,ヨウ素アニオン・分子からの原子間距離は,ファンデルワールス半径23)の和よりも短かった.これは,ファンデルワールス力をベースにして凝集した共結晶体中での分子間相互により,一般的に大気中で不安定な環状S 6分子が,半年以上も安定に存在するための1つの要因であることが示唆される.51