ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

ページ
57/92

このページは 日本結晶学会誌Vol56No1 の電子ブックに掲載されている57ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No1

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No1

日本結晶学会誌56,49-53(2014)最近の研究から共結晶中に見られた安定な環状S 6分子の構造(公財)高輝度光科学研究センター杉本邦久,藤原明比古㈱ポリチオン上町裕史近畿大学理工学総合研究所前川雅彦Kunihisa SUGIMOTO, Akihiko FUJIWARA, Hiroshi UEMACHI and MasahikoMAEKAWA: Air-Stable Cyclohexasulfur in CocrystalA new air-stable cyclohexasulfur(cyclo-S 6)was discovered in the crystal of 3,5-diphenyl-1,2,4-dithiazol-1-ium(dpdti)iodide, formed by cocrystallization. The dpdti was synthesizedvia an oxidation reaction of thiobenzamide with iodine in benzene. Two kinds of crystal habits?brock-shaped(crystal-A)and needle-shaped(crystal-B)?were obtained following recrystallizationfrom acetonitrile solvent. All molecules in crystal-A and -B were identified throughsingle-crystal X-ray structure analysis using a synchrotron X-ray. The cyclic-S 6 molecule in thecrystal-A is a self-assembly enclosed by the dpdti cation and iodide anion, and is assumed tocontribute to their stability in the crystal, akin to the S n ring in zeolites and sodalites. In thecontext of cyclo-S 6 , cocrystallization is constituted by weak intermolecular effects such as thevan der Waals force. Crystal engineering of cocrystals resulted in air-stable cyclo-S 6 . Thisstudy presents a method to turn an unstable molecule into a stable crystalline molecule thatmaintains its origin structure, with an aim of predicting its stability in future studies.1.はじめに1.1共結晶体共結晶体とは, 2種類以上の分子(単体で固体)が弱い相互作用によって構築される結晶性の物質である.類似した用語である共晶は, 2成分以上を含む液体の混合物を冷却するとき同時に析出する2種以上の結晶の混合物で,純粋な結晶のように融けるときに一定の温度を保つ物質である.また,混晶は, 2種類以上の物質が原子,または分子のレベルで均一な溶体となった結晶であり固溶体とも呼ばれ,いずれの物質も特異な性質を示すが,共結晶体とは形態が異なる.共結晶体は,水素結合やハロゲン結合1)などの弱い分子間相互作用を介して構築されている.この共結晶化技術を用いることにより,不安定な物質であっても分子構造を保持できるだけでなく,溶解性や熱・湿度安定性などの物性を制御することが可能である.例えば,医薬品の開発では,体内に投与された医薬品は,病巣や標的部位まで必要な量が最適な速度で運搬されることが求められるが,この要求に対し,医薬品原末のナノ粒子化やカプセル化に並ぶ創薬技術として,共結晶体の構築による溶解性や水和安定性の制御が検討されている.医薬品原末の共結晶化による物性制御の利点としては,ほかの手法と比べて,主となる物質の分子の構造を変えることなく,溶媒和エネルギーを変化させることにより,安定性や溶解性など日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)の物性制御ができる点である.このように,共結晶体の構築は,医薬品をはじめとした多くの物質の分子構造を変えることなく,安定性や溶解性などの物性を制御する研究が注目されている.本研究では,共結晶体を構築することにより,大気中で不安定な環状の硫黄分子が分子構造を変えることなく安定に存在できることを見出したので報告する.1.2環状硫黄硫黄は,元素として30種以上の同素体が存在し,かつ-2価から+4価までの酸化状態をとることが知られている. 2)-8)硫黄の同素体の中でも熱による変化で,α硫黄からポリマー硫黄へ至る過程では,α,β,γ,λ,μ硫黄などが生成されることが報告されている. 9)工業的用途も広く,硫黄から生産される硫酸は,化学工業において最も重要な酸である.また,ゴム製品では,硫黄は,ゴムの性質を制御するためのゴム架橋剤として,配合量の調製だけでなく,微粒子化,不溶性硫黄(ポリマー化)などにより使用されている.通常,天然に見られる同素体は環状のS 8硫黄であり,王冠型に硫黄原子が配列した八員環構造を有している. 10)150~400℃の温度域の硫黄蒸気中には,環状S 6が60~70%,環状S 5,環状S 7,環状S 8が合わせて30~40%,反応性の高い環状S 3が1%含まれることがマススペクトルによる研究で確認されている. 11)この中でも環状S 6構造は,固体状態の環状硫黄分子の最小単位であるが, S 6構造49