ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

c軸配向アパタイト型ケイ酸ランタン多結晶体の作製と酸化物イオン伝導移動するpush-pullタイプの伝導機構を提唱し,実測値(0.35 eV)にきわめて近い活性化エネルギー(0.32 eV)を導出している.しかし, La 9.33Si 6O 26とLa 9.50Si 6O 26.25の伝導機構の類似性を説明することは困難であり,改良の余地が残されている.まずは精緻な実験結果を基に,伝導に寄与する酸化物イオン席を特定する必要がある.4.まとめ図7各種酸化物イオン伝導体の伝導度の比較.(Comparisonof oxide-ion conductivity of apatite, perovskite andfluorite-type oxides.)YSZ:(ZrO 2)0.91(Y 2O 3)0.09, 19)LSGM:La 0.8Sr 0.2Ga 0.8Mg 0.2O 2.820)差込図はc軸配向La 9.33Si 6O 26多結晶体の写真(直径約12 mm×厚み約0.4 mm,透過照明).3.4 c軸方向の酸化物イオン伝導円盤状の配向LSO多結晶体に白金電極を取り付けて,800℃までの粒子バルク内のイオン伝導に由来する抵抗成分を交流インピーダンス法で求め, c軸方向のイオン伝導度(σ)を算出した(図7). 5)-7)過剰な酸化物イオンを含むLSO(La 9.50Si 6O 26.25)のσ値は,過剰なLa 2O 3成分やSi席に欠損がないLSO(La 9.33Si 6O 26)のσ値よりも450から700℃の範囲で約2.5倍大きい.イオン伝導の活性化エネルギーは,ともに約0.35 eVなので,格子間に位置する過剰な酸化物イオンの有無にかかわらず,両者の伝導機構はきわめて類似すると予想される. Si席が欠損するLSO(La 9.50Si 5.87O 26)のσ値は,すべての温度域でLa 9.33Si 6O 26よりも高く,さらに577℃以上ではLa 9.50Si 6O 26.25よりも高い. 600℃のσ値を比較すると,三種類のLSOの中でLa 9.50Si 5.87O 26が最も高く4.2×10 ?2 S/cmに達する.LSOの酸化物イオン伝導度をさらに向上させるためには,伝導機構の解明が不可欠である.室温や高温下のX線回折法で精密化した結晶構造を基に, O4席や格子間席を占有する酸化物イオンがc軸に沿って伝導する経路を考察した研究21)-24)や, La 9.33Si 6O 26のO1またはO2, O3席の酸化物イオンが酸素同位体(17 O)によって置換される過程を,高温下の固体核磁気共鳴分光法で追跡した研究25)がある.これらの実験的手法に加えて,第一原理分子動力学などの計算手法を駆使して,さまざまな伝導機構が提唱されている.なかでもBechadeら26)は, O4席と格子間席の酸化物イオンが互いに位置を交換しながらc軸に沿って日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)比較的低温で酸化物イオンが高速伝導する固体電解質は, SOFC以外に,酸素センサーなどの車載用デバイスへの応用が期待されている.現状の酸素センサー用電解質はYSZであり,内部にヒーターを組み込んで800℃以上に加熱して作動させている.今日では燃費の向上とともに排ガス温度は低下する傾向にあり, 300℃で2.4×10 ?3 S/cmの伝導度が発現するc軸配向La 9.33Si 6O 26多結晶体は,その有望な電解質である.反応拡散によるLSOのc軸配向化と結晶構造・化学組成制御によって,従来の固体電解質よりも低温でイオン伝導度の大幅な向上が達成できた.今後は,さらなる伝導度の向上とともに,低温作動型固体電解質の実用化研究を推進したい.文献1)江口浩一:セラミックス48,146 (2013).2)S. Nakayama, T. Kageyama, H. Aono and Y. Sadaoka: J. Mater.Chem. 5, 1801 (1995).3)S. Nakayama and M. Sakamoto: J. Eur. Ceram. Soc. 18, 1413(1998).4)齋藤康善:セラミックス47, 258 (2012).5)K. Fukuda, T. Asaka, R. Hamaguchi, T. Suzuki, H. Oka, A.Berghout, E. Bechade, O. Masson, I. Julien, E. Champion and P.Thomas: Chem. Mater. 23, 5474 (2011).6)K. Fukuda, T. Asaka, M. Oyabu, D. Urushihara, A. Berghout, E.Bechade, O. Masson, I. Julien and P. Thomas: Chem. Mater. 24,4623 (2012).7)K. Fukuda, T. Asaka, S. Hara, M. Oyabu, A. Berghout, E. Bechade,O. Masson, I. Julien and P. Thomas: Chem. Mater. 25, 2154 (2013).8)K. Fukuda, T. Asaka, N. Ishizawa, H. Mino, D. Urushihara, A.Berghout, E. Bechade, O. Masson, I. Julien and P. Thomas:Chem. Mater. 24, 2611 (2012).9)N. A. Toropov, I. A. Bondar and F. J. Galakhov: Trans. Intern.Ceram. Congr. 8 th Copenhagen, 85 (1962).10)A. D.Smigelskas and E. O. Kirkendall: Trans. AIME 171, 130(1947).11)F. K. Lotgering: J. Inorg. Nucl. Chem. 9, 113 (1959).12)K. Fukuda, T. Asaka, M. Okino, A. Berghout, E. Bechade, O.Masson, I. Julien and P. Thomas: Solid State Ionics 217, 40 (2012).13)K. Fukuda, T. Asaka and T. Uchida: J. Solid State Chem. 194,157 (2012).14)奥寺浩樹,鱒渕友治,吉川信一:日本結晶学会誌53, 86 (2011).15)H. Okudera, Y. Masubuchi, S. Kikkawa and A. Yoshiasa: SolidState Ionics 176, 1473 (2005).16)H. Okudera, A. Yoshiasa, Y. Masubuchi, M. Higuchi and S.Kikkawa: Z. Kristallogr. 219, 27 (2004).17)H. Okudera, A. Yoshisasa, Y. Masubuchi, M. Higuchi and S.47