ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

大串研也,大隅寛幸,山浦淳一,有馬孝尚図8 CaIrO 3のイリジウムL吸収端におけるX線吸収スペクトルと0 0 5反射強度(I)のエネルギー依存性.(X-ray absorption spectra and energy dependenceof the intensity of the 0 0 5 reflection for CaIrO 3.)(a)吸収スペクトルは室温で測定した.(b, c)0 0 5反射は10 Kで測定した.インセットはL 3エッジでの0 0 5反射のアナライザー角(θA)依存性を表す.子テンソルの異方性成分が禁制反射位置である0 0 l(l:奇数)に有限の反射を生み出す.こうしたATS反射は,共鳴条件が整ったときのみに観測される.また,アジマス角(Ψ)に強く依存する.例えば,正方晶歪の主軸がbc面にあることを念頭に図4を睨めばわかるように,σ//aの場合にはサイト1と2の区別が付かなくなり0 0 lにおけるATS反射は消失する.一方で,σ//cの場合にはサイト1と2の相違が顕著になるためATS反射は最大値をとる. 8)実験結果に戻ろう.図8bの測定を行ったΨ=0°では,ATS反射は理論上ゼロとなることが期待されるため, 0 05反射の全強度は磁気反射に起因すると結論付けられる.この実験配置において,σ→π’なる偏光依存を示すこと(図8bのインセット),磁気転移温度以上で強度が消失すること(図6b)は,磁気反射との同定と符合する.一方で,図8cの測定を行ったΨ=90°においては, ATS反射の寄与が磁気反射の寄与の12倍程度であり, ATS反射が主要な寄与となっている(詳細は原論文を参照されたい).0 0 5に磁気反射を観測したという事実から,ただちにサイト1と2のスピンが反強磁性的に結合しているという磁気構造が導かれる.この磁気構造において,スピンはIrO 6八面体の稜共有方向(a軸)に強磁性的に,頂点共有方向(c軸)に反強磁性的に結合しており,ストライプ型と呼ばれる.本来なら,スピンの配列パターンに加えてスピンの方向を磁気反射のアジマス角依存性から決定することも可能なのであるが,結晶が針状のモルフォルジーを有することから信頼性のあるデータを得ることができなかった.そこで磁気点群に関する議論を併用することにした.サイト1と2の反強磁性秩序を含む単位格子で閉じた磁気構造は, 4つの規約表現に分類することが可能であり, CaIrO 3における磁気転移は二次であるため,そのうちの単一の規約表現に属している.それは,バルクの磁化測定から判明しているb軸方向の強磁性成分の属する規約表現であり,このことから反強磁性スピンはc軸方向であることが結論付けられる.このようにして完全に決定した磁気構造を図4に示す.3.4軌道状態さて,このように磁気構造の詳細がわかったわけであるが,理論と比較するためには,そもそもホールがJ eff=1/2軌道状態を占有しているかを調べる必要がある.共鳴X線散乱はスペクトロスコピーとしての側面も有しており,光の遷移に関する選択則を適用することで軌道の情報を得ることができる. 9)つまり,イリジウムの内核2p軌道はスピン軌道相互作用により分裂しており,それに対応してL 2およびL 3吸収端が存在するため,その吸収端依存を議論することができる.実験結果に目を移すと,図8に示すように, L 3吸収端で明瞭に観測された0 0 5における磁気反射とATS反射は, L 2吸収端では測定精度の範囲内で観測されなかった.このきわめて対照的な吸収端依存を,配位子場理論の範疇で議論する. CaIrO 3の軌道状態は,スピン軌道相互作用ζ(>0)と正方晶歪み由来の結晶場?の2つのエネルギースケールの大小により決定されている.両者が存在するときの波動関数は一般に,?±>=A = ?ζ? 6? + 3 3ζ+ 4ζ? + 12?2ζと書ける. A=0の場合は正方晶歪の大きい極限に対応しており,図5bのような軌道状態が安定になる. A=1の場合はスピン軌道相互作用の強い極限に対応しており,図5cのようなJ eff=1/2状態が安定になる.双極子近似の下で,原子散乱因子テンソルf?は,fαβ=∑c3mωacaRαccRβahωω?ω?iΓ∑ac~ C aR c cR ac12A+ 2α( Axy±>±yzm> + izxm>)2 2βと書ける.この式は,質量mの電子が基底状態|a>から励起状態| c>へ電気双極子R→により遷移し,この励起状態から基底状態に戻るプロセスを表している.式中のωacは基底状態と励起状態のエネルギー差,Γ?1は緩和時間,Cは比例定数である. CaIrO 3においては,基底状態| a>はサイト1では|?+>,サイト2では|?->であり,励起40日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)