ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

大串研也,大隅寛幸,山浦淳一,有馬孝尚図4ポストペロブスカイト型酸化物CaIrO 3の結晶構造と磁気構造.(Crystal and magnrtic structures of a postperovskite-typeoxide CaIrO 3.)(a)単位格子内に2つのイリジウムが存在し,それぞれのサイトの局所的な主軸はc軸から角度±23°だけ傾いている.イリジウムのスピン間には,強磁性的量子コンパス型相互作用J 1と反強磁性的Heisenberg型相互作用J 2が働いている.(b)b軸方向から眺めた結晶構造. a軸方向に稜共有, c軸方向に頂点共有で繋がっている.スから相互作用は生じない.相互作用のリーディングタームは, Hund結合に関する高次のプロセスから生まれており,それは量子コンパス型相互作用H compass=-J 1S z z 1 S 2(J1=8t 2 J H/9U 2)となる.ここで,異方性の主軸zは稜共有を形成する遷移金属と酸素からなる平面の法線方向である.注目に値するのは,相互作用の符号が180°結合の場合と異なり強磁性的である点である.また, J 1/J 2=3J H/2U<1の関係式があり, 90°結合は180°結合と比較して弱いスピン間相互作用を有していることもわかる.また,異方的な超交換相互作用が,(スピン軌道相互作用ではなく)フント結合の摂動として生じている点は非常に興味深い.以上を要約すると, J eff=1/2スピン間には, 180°結合では反強磁性的Heisenberg型相互作用が, 90°結合では強磁性的量子コンパス型相互作用が働く.3.CaIrO 3の磁気構造・軌道状態3.1ポストペロブスカイト型イリジウム酸化物われわれは,こうした理論的予言を受け,現実の物質で量子コンパス型の超交換相互作用が働いていることを実証することを目論んだ.研究対象とした物質は5d遷移金属酸化物CaIrO 3である.結晶構造は図4に示すポストペロブスカイト構造と呼ばれるものであり,空間群は斜方晶のCmcmに属する(この構造は地球科学で注目を浴びているものである4)). IrO 6八面体がa軸方向に稜共有, c軸方向に頂点共有で繋がり,こうしてできたIrO 3層の間にCaが挟まっている.電子物性はイリジウムの5d電子が担っている.イリジウムの形式価数は4価であり, 5個の5d電子が存在する.イリジウムは酸素に八面体的に囲まれているため立方晶の配位子場を感じており,したがって5d軌道はスピンの自由度も含めて6重縮退したt 2g軌道と4図5図6Ir 4+イオンの電子状態.(Electronic configurations ofIr 4+ ions.)(a)t 2g軌道に5個の5d電子が詰まっている.(b)IrO 6の正方晶歪(?)が大きい場合の軌道状態.(c)スピン軌道相互作用(ζ)が大きい場合のJ eff=1/2と呼ばれる軌道状態.CaIrO 3の磁化(M)と0 0 5反射強度(I)の温度(T)依存性.(Temperature dependence of the magnetizationand intensity of 0 0 5 reflection for CaIrO 3.)磁化は0.1 Tの磁場(H)の下で測定した. 0 0 5反射はアジマス角(Ψ)が0°における値である.38日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)