ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

日本結晶学会誌56,36-42(2014)最近の研究からポストペロブスカイト型化合物CaIrO 3の磁気構造東京大学物性研究所理化学研究所放射光科学総合研究センター東京工業大学元素戦略研究センター東京大学大学院新領域創成科学研究科,理化学研究所大串研也大隅寛幸山浦淳一有馬孝尚Kenya OHGUSHI, Hiroyuki OHSUMI, Jun-ichi YAMAURA and Taka-hisa ARIMA:Magnetic Structure of Post-Perovskite Compound CaIrO 3We have performed resonant X-ray diffraction experiments at the Ir L absorption edgesfor a post-perovskite compound CaIrO 3 with a Ir 4+ :(t 2g)5 electronic configuration. By observingthe magnetic signals, we could clearly see that the magnetic structure was a striped ordering withantiferromagnetic moments along the c axis and that the wave function of a t 2g hole is stronglyspin-orbit entangled, the J eff=1/2 state. The observed spin arrangement is consistent with atheoretical work predicting a unique superexchange interaction called the quantum compass model.Our studies stimulate further studies for developing novel quantum states in iridium oxides.1.はじめに「スピンとはミクロな磁石のことである」と言うが,スピンと磁石のアナロジーはどの程度まで成立するのであろうか.*1単一のスピン・磁石は,磁気モーメントというしばしば矢印で表現される磁気的な量を有している点は共通している.では,複数のスピン・磁石の間に働く相互作用においてもアナロジーが成立するのであろうか?はじめに磁石間の相互作用を考えるために,コンパス(方位磁針)を図1aのように直線状に並べてみよう.する図1磁石間とスピン間の相互作用.(Schematic view ofthe interaction between magnets and that betweenspins.)(a)磁石間の相互作用は異方的であり,磁石が一次元鎖に向いた状態が安定である.(b)スピン間の相互作用は等方的なものであり,任意の角度θでエネルギーは同じである.*1ここで,スピンとは電子の有する角運動量のことであり,磁石とは永久磁石のことを意味している.と,それぞれのコンパスのN極は隣り合うコンパスのS極に近づこうとするため,結果的にすべての磁針はコンパスを並べた一次元軸を向き強磁性的に揃う.この状態からすべてのコンパスを90°回転してみる.すると,あるコンパスのN極と隣り合うコンパスのS極が空間的に離れるためエネルギー利得を稼げなくなる.したがって,コンパスの磁針はおのずと一次元鎖方向へ回転し,元の状態に戻ることになる.ここで,回転前と回転後の状態は,どちらもすべての磁針が同一の方向に揃っており,磁針の方向のみ異なることに注意されたい.この簡単な実験からわかることは,「磁石間には強磁性的な相互作用が働き,それは異方的なものである」ということである.相互作用を数式により表現するとH compass=-J 1S z 1 S z 2となり,これをコンパス型相互作用と呼ぶ.ここで, S iはi-サイトの「磁石」演算子であり, z方向が一次元鎖方向に対応している(ただし,本稿の以下ではS iは通常どおり「スピン」演算子を意味する).次にスピン間の相互作用を考えよう.物質中でスピン間に働く相互作用として代表的なものは, Heisenberg型相互作用H Heisenberg=J 2S 1・S 2である. J 2の符号に応じて強磁性的あるいは反強磁性的な相互作用になるが,重要な点はこの相互作用は回転対称性を保持しており等方的である点である.したがって,強磁性的なHeisenberg型相互作用が一次元鎖で働く場合,すべてのスピンが同一の方向に揃っていれば基底状態となり,系のエネルギーはスピンの方向に依存しないことになる(図1b).等方的なスピン間相互作用は,異方的な磁石間相互作用とはきわめて対照的である.この相違の起源は,磁石が有限の大きさを有しているのに対して,スピンは無限小の大きさを有しているところ36日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)