ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

X線自由電子レーザーを用いた非結晶粒子のコヒーレントX線回折イメージング境界が不明確になりやすいので,試料調整段階で余剰な水を除去することがその明確化に重要である.また,生体粒子に類似した電子密度を有するミクロな塵と試料生体粒子を区別する必要がある.膨大数の回折パターンについての像回復を通じて,目的試料粒子であることを確かめることが肝要である.照射歩留まりが低い実験ではその区別は不可能なので,論文などに掲載される不定形生体粒子の電子密度図については,測定での歩留まり,測定粒子数や解析における判定方法について十分な注意を払って,偽の結果を鵜呑みにしないように注意を払う必要がある.5.将来展望CXDIはまだ若い測定方法であり,構造解析のうえで解決すべき問題が残されている.この節では, XFEL-CXDI実験を今後どのように改善するのか,また,像回復の信頼性をどのようにして担保するのかを考えてみる.5.1 XFEL-CXDI高速データ収集装置の開発SACLA実験では,大強度のXFELパルスによる試料の放射線損傷により, 1 XFELパルスにつき1回折像しか記録できない.また,ビームによる試料粒子のクーロン爆発やその爆散範囲は, 1μm集光ビームで半径15μm程度となるので, 19) 30~50μm/pulse程度のラスタースキャンを行っている. XFEL計画の立案時にデザインされた壽壱号のゴニオメータはこのように大きな爆散範囲を考慮していないので,現在のSACLAからのパルス繰り返しの増大に追随できなくなっている.これを改善するため,クライオポット並進移動の高速化,ラスタースキャン照射を数多く実施可能な低散乱・低吸収試料支持膜の大面積化,試料ホルダー交換回数低減が望まれる.現在,高効率CXDI実験の実現に向けた次世代クライオ試料固定照射装置“高砂六号”を開発しているところである.XFEL単パルスによる破壊的実験で得られる回折パターンからは,高い分解能で投影構造を回復できる.一方で, SPring-8のCXDI実験で利用しているX線の強度は10 8?9 photons/s程度であり,試料を液体窒素温度に保持することで放射線損傷限界までCXDIトモグラフィー実験が可能である. SPring-8キャンパスでは,このような相補的CXDI実験が可能であることから,シンクロトロン放射光による低分解能CXDIトモグラフィーと, XFEL-CXDIによる大量の高分解能投影図を統合しながら,多階層性粒子のイメージングが進んでいくものと考えられる.5.2像回復理論データ収集ハードウェアとデータ処理ソフトウェアが完備されつつある現在,高効率なXFEL-CXDI実験・解析を阻む律速は,位相回復成否の判定方法である. CXDI実験では,透過X線に対するビームストップによって原点および低角度領域の回折パターンを記録できないことに加え,小角領域での検出器ピクセルの飽和などは試料外日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)形情報のさらなる欠損をもたらし,サポート決定を困難にして像回復の信頼性を低下させる.高角領域の構造振幅から試料外形を推定する暗視野位相回復法31)や照射野散乱断面積の増加による信号増強16)が提案されているが,像回復の成否を判定する条件を提示しているわけではない.反復的位相回復法で得られる像が正しいのか否かを自動的に判定する方法や位相回復過程にて陥った局所極小からの脱出などに重点を置いた解析方法の検討が不可欠な状況にあると言える.現状では,電子密度の収束度や回折強度の回復具合の判断に,それぞれサポート内外の電子数比であるγ(式(4))と通常の結晶学的R F因子を指標として用いている.しかし,良質な1回折データの位相回復計算を, 1000の異なる初期電子密度について実施すると,それらパラメータの低減が必要条件ではあるものの,正しい電子密度に至ったことを担保できる十分条件でないことが明らかとなってきた. 32) XFEL-CXDIによる非結晶粒子の三次元トモグラフィーも視野に入り始めた現在,膨大に得られる良質な回折パターンについて,逐次,高効率な像回復を実施し,その過程や得られる電子密度の正しさを正確かつ自動的に判断する必要がある.良質な回折パターンについて,迅速で確実な像回復を担保するため,従来法に拘泥せず,正確に像回復結果を評価できる判定基準と解空間の効率的探索を模索しているところである. 32)謝辞装置製作で御助力いただいている仁木工芸㈱,㈱理学相原精機に謝意を表します.実験では, SACLA検出器グループやエンジニアリングサポートチームにご助力いただきました.本稿に記した装置開発と実験には,文部科学省XFEL利用推進課題研究, XFEL重点課題研究,特定領域研究,新学術領域研究,日本学術振興会の基盤研究(A),基盤研究(B),若手研究(A),挑戦的萌芽研究,および,理化学研究所からのSACLA利用装置提案課題の支援を受けました.実験は, SPring-8の理研ビームライン利用課題(課題番号20090097, 20100035, 20110006)およびSACLA利用研究課題(課題番号2012A8001, 2012A8005, 2012A8006,2012A8010, 2012A8022, 2012A8027, 2012B8037, 2013A8043,2013B8049)として実施されました.文献1)J. Miao, D. Sayre and H. N. Chapman: J. Opt. Soc. Am. A 15,1662 (1998).2)J. Miao, P. Charalambous, J. Kirz and D. Sayre: Nature 400, 342(1999).3)J. Miao, T. Ishikawa, Q. Shen and T. Earnest: Annu. Rev. Phys.Chem. 59, 387 (2008).4)J. R. Fienup: Appl. Opt. 21, 2758 (1982).5)C. Song, H. Jiang, A. Mancuso, B. Amirbekian, L. Peng, R.Sun, S. S. Shah, Z. H. Zhou, T. Ishikawa and J. Miao: Phys.33