ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

X線自由電子レーザーを用いた非結晶粒子のコヒーレントX線回折イメージング強度分布の中心対称性(Friedel則, I(S x,S y)=I(-S x,-S y))のために,(3)の方程式数は投影図再現に必要な数の半分Nx×Ny()となり,ρP(x,y)を再現できない.これに対し,2回折パターンを, S x方向にσx(σx>1)倍かつS y方向にσy(σy>1)倍細かくサンプルしてσ=σxσy>2を満足すれば,中心対称性による情報不足を補い,原理的にρP(x,y)を得ることができる.この条件をOversampling(OS)条件,σをOS比と呼ぶ.実際の解析では, OS条件で記録した|F(S x,S y)|の組に対し,反復的位相回復アルゴリズム4)を用いてρP(x,y)を再生する(図1).同アルゴリズムでは,実空間と逆空間を交互に往来しながら計算される投影電子密度ρ'k(r→)や構造因子G k(S→)に拘束条件(constraint)を課す.逆空間では,例えば,単純に構造振幅|G k(S→)|を観測値|F OBS(S→)|に置き換える. OS条件で得た構造因子のIFT像には,逆空間と実空間の相反性から,求めるべきN x×N yピクセルの粒子領域(サポート)よりも大きなσxN x×σyN y内に像が再生される.サポート外の電子密度は零であるべきなので,その点を考慮した実空間での拘束条件がいろいろと考案されている.多くの場合,収束性に優れたHybrid-Input-Output(HIO)アルゴリズム4)やその変法が用いられる.例えば, HIO実空間拘束条件は?r r rr ?ρ'k( )∈support andρ'kρk+ 1( )= ? r r??ρk( )?βρk'( ) otherwiseであり,通常1に近い値が用いられる定数βによってサポート外電子密度を敢えて零にせず,偽解での停留を防いでいる.反復を繰り返すと,サポート内は正しい電子密度に収束し,サポート外電子密度の和は零に漸近するはずである.その判定にはサポート内外の電子密度総和の比に,サポート内外の面積比(1/(σ-1))を乗じた1γ=(σ?1)∑r?Support∑r∈Supportρr( )ρr( )[ 0][ ] ( )?(4)が用いられるが, 13)正解像回復の必要条件である点に注意を要する.本来,粒子のみが電子密度をもつため,粒子投影像形状をサポートにすれば位相回復の改善が見込まれる.粒子構造が不明な初回サイクルでは,回折強度パターンから得られる自己相関関数が零に収斂する領域をサポートとする.さらにサイクルが進むと定期的に回復投影電子密度にローパス・フィルターとして作用するガウス関数を畳み込み,ある閾値以上の電子密度をもつ領域を新たなサポートとする.この方法はShrink-Wrap(SW)法14)と呼ばれ,日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)図1反復的位相回復法の概要. 4),16),28)(A schematicillustration of iterative phase-retrieval calculation.)粒子境界の明確化で,正しい位相の組を与える大域解への接近を促進する.3.低温CXDI実験用クライオ試料固定照射装置“壽壱号”3.1デザインコンセプトわれわれは, SPring-8とSACLAの両方を相補的に活用したCXDIの展開を指向し,それら施設の光源特性,ビームライン光学素子,ビームサイズ,想定測定対象試料粒子の散乱断面積・サイズや物理的特性,照射野への試料導入方法や放射線損傷などを考慮しながら, CXDI実験用照射装置を設計した. SPring-8では,放射線損傷限界9)までの低温トモグラフィー実験が可能である. XFELでは, X線パルスによる原子団のクーロン爆発が生じるものの, 17)極短強力パルスにより, SPring-8での放射線損傷限界を超えた解像度での弾性散乱が可能と考えられた.しかし,試料破壊に対処するためには,試料粒子を順次照射野に投入し,歩留まりの高い試料照射を可能とする回折装置の開発が望まれた.いずれの場合にも,試料は真空中に置くことがバックグラウンド散乱低減に不可欠である.しかし,真空中では生体粒子が脱水され,室温下ではX線による放射線損傷が著しい.生体粒子の水和凍結氷包埋法18)が歩留まりの高い照射を容易に実現して,これらの問題に容易に対応でき29