ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

中迫雅由,苙口友隆,関口優希,小林周,橋本早紀,白濱圭也,山本雅貴,高山裕貴,米倉功治,眞木さおり,引間孝明,高橋幸生,鈴木明大,松永幸大,乾弥生,登野健介,亀島敬,城地保昌,犬伏雄一,星貴彦間と労力のかかる方法が用いられてきた. CXDIではそれらを丸ごと観察可能なので,従来法に対して相補的な構造情報を提供できると期待される.さらに,完全空間コヒーレントX線を極短パルスとして供給するX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser:XFEL)が登場し,放射線損傷による分解能制限9)を超えた,非結晶粒子の構造解析が期待されはじめたところである.本稿では, CXDIについて,その原理,実験方法の現状をまとめるとともに, XFEL施設SACLA(SPring-8 AngstromCompact Free Electron LAser)10),11)でのCXDI実験・解析の現状を紹介しながら, CXDIの将来的な発展を議論する.2.CXDIの原理2.1基本方程式物質に入射したX線は,主として電子と相互作用する.その“弾性散乱”過程では,入射X線電場によって電子が振動し, Lienard-Wiechertポテンシャルを通して入射X線と同波長のX線を双極子放射(散乱)する. 12)多数原子で構成された物質に平面波X線が入射すると,物質内の電子から生じた散乱波がMaxwell方程式の線形性に従って足し合わされ,巨視的な干渉縞となって観測される.その模様(強度分布)は,物質内電子密度分布に依存する.試料粒子に波長λの平面波X線を強度I 0で照射する場合,入射伝播ベクトル→k 0と観測方向の伝播ベクトル→kの差として定義される散乱ベクトル→S=(k→-→k 0)/2πにおいて観測される強度I(S→)は,粒子の構造因子F(S→)とその複素共役, 1個の電子に関するX線散乱断面積や干渉縞検出での幾何学的因子の積として表される.r2r r2?λ? *IS ( )= Ir 0 e ? FS FS?σΑ?rFS ( )=∫r rFS exp iαS? ( ) ( )= ( ) ( )()=∑i( )?ir r r r3rρexp 2πiS d r f S exp 2πiS ( ) ?[ ]( )(1)r eは古典電子半径であり, 1個の電子の散乱断面積はきわめて小さなものである(6.7×10 ?25 cm 2). Aとσは,それぞれ,入射X線に垂直方向の試料の長さと,干渉縞をどの程度細かく検出したかを表す因子(後述する検出器の一方向に関するoversampling(OS)比)である.複素数F(S→)は物質内電子密度分布ρ(r→)のFourier変換(FourierTransformation:FT)であるが,より直感的には,原子位置r iと観測方向で決まる位相項exp(2πiS→・r→i)を,個々の原子がX線を散乱する能力(原子散乱因子)fi(S)で重みづけしたものの和として理解される.CXDIでも,構造振幅|F(S→)|のみが得られ,位相α(S→)は回折パターンから失われるが,構造因子の逆Fourier変換(Inverse Fourier Transformation:IFT)である電子密度分布は,反復的位相回復法によって得ることができる.弾性散乱では,入射X線と散乱X線の伝播ベクトルの大きさが等しいので,回折強度は,散乱ベクトル空間(逆空間)原点に接し,その中心を入射X線の伝播ベクトル上にもつ半径1/λの球面(Ewald球)上に限り,観測できる.この点は,ほかのX線回折実験と変わらない.式(1)は,構造解析を指向する回折実験に必要な入射X線強度I incidentを議論する場合に重要である.原点散乱強度I elec(S→=0)は,以下のように表されるので,粒子の平均電子密度_ρmol,分子量M M,サイズA,偏比容V M, Avogadro数N A,測定でのOS比σ, X線波長λと古典電子半径r eから,実験に先立って単粒子からの回折強度を計算できる.r V MIelecS =2M M( )= r? emol I? ?λ?0 ?×σΑ?ρN(2)例えば,入射強度I incidentが10 11 photons/μm 2 /pulseの場合,解析に足る散乱強度を期待するのであれば,どの程度の投影電子密度(総電子数/μm 2)を有する粒子がXFEL-CXDI実験の試料に適しているかを式(1)や式(2)を参照して見積もることができる. CXDI実験では,回折物理学の基礎に立ち返って実験をデザインする必要があり, WEBなどに流布されている間違った情報(例えば, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/022/attach/1308353.htm)に惑わされないように注意しなければならない.十分な検討を怠ると,解析に足る回折パターンを取得できずに貴重なビームタイムを浪費することになる.2.2 CXDIにおける像回復現在,われわれがSACLAで行っているCXDI実験では,波長約0.2 nmのX線を用いて分解能10~40 nm程度の回折パターンを収集しているので, Ewald球を平面に近似できる.この場合,逆空間原点を通り,入射伝播ベクトル→k 0に垂直な平面の構造振幅|F(S x,S y,S z=0)|は,試料粒子内電子密度分布ρ(r→)をz方向に投影したρP(x,y)のFTの絶対値となる(投影定理の特別な場合).( )=∫( ) +F S , S , S = 0ρx, y exp 2πi S x S y dxdyこのような条件下で,粒子の投影電子密度ρP(x,y)をN x×N yピクセル解像度で再現することを考える.観測した回折パターン上の(S x,S y,S z=0)ピクセルでの構造振幅はFOBSx y z xy , Px yP( Sx, Sy,Sz= 0)Nx?1Ny?1x=0 y=0( )=∫( )ρxy ,ρxyzdz , ,z2 2? ?xy , exp?2πiS ?x x? N??=∑∑ρP( ) +[ ( )](3)で与えられ, dxdyは逆空間面積素片である.構造振幅|F OBS(S x,S y,S z=0)|をN x×N yピクセルで観測すると,回折AxSyincidenty Ny????dxdy???28日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)