ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

ページ
28/92

このページは 日本結晶学会誌Vol56No1 の電子ブックに掲載されている28ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No1

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No1

松原英一郎,徳田一弥,河口智也,山田昇図6立方晶における111, 200, 220の3つの独立な方位の膨張率の遅延時間変化.(Lattice expansioncoefficients for three independent directions of 111,200, and 220 in cubic Ge 2Sb 2Te 5 as a function ofdelay times.)とその技術を使ったGe 2Sb 2Te 5多結晶薄膜の測定結果の例を紹介した.これまでパルスX線光源の強度による制約から実現できなかった粉末や多結晶試料を用いた測定とその有効性について示した.この手法を用いることで,非熱的過程における化学結合変化の異方性の発現とその発展過程の実験的計測が可能になり,結晶に系外からエネルギーを与えた場合の結晶構造のダイナミクスを解明する上でのこれまでにない新たな実験的知見を提供できるようになった.また,ここでの実験的知見は,計算科学による結晶構造のシミュレーションと直接比較できる時間スケールに近づいており,将来,計算科学による構造ダイナミクスとの融合による新たな結晶科学を拓く可能性があると考えている.本稿を通じて,より多くの研究者や技術者が,本技術に興味をもち,本技術を活用した共同研究が進展することで,新たな物質の構造ダイナミクスの研究が発展することを期待している.よる膨張率の相対的な時間変化である.この図6からわかるように, 30 ps付近での膨張率の最高値を比較すると, 111回折で膨張率の値が最も大きくなり,次いで220回折,そして200回折と,膨張率は小さくなる.すなわち,膨張率の大きさが結晶方位で異なっていることがわかる. Ge 2Sb 2Te 5が立方晶構造であることを考えると,図6で観察された励起光レーザーによって誘起された格子の変形は,熱的過程での等方的な変形とは異なる,非熱的過程特有の格子変形を表していることがわかる.またここで観測された格子変形を長時間側まで外挿すると,緩和時間を見積もることができる.例えば, 200回折ピークの膨張曲線を指数関数型の減衰曲線でフィッティングすると, e ?1になる緩和時間は約1.8 nsと求められる.したがって,図6で観測される格子の変化は,繰り返し測定の間隔(50 ms)に比べて十分に早い時間で緩和していることがわかる.また異なる結晶方位での格子膨張の変化を図6に示した時間領域よりさらに長時間側でも観察することで, 3つの結晶方位で同じ値に収束するような傾向が観察されることから,非熱的過程で結晶に与えられたエネルギーが,格子に熱として伝えられ系外に放出される過程に対応していると考えている.また,図6で観察されるようなGe 2Sb 2Te 5で111方向の膨張が最も大きくなる原因の詳細については更なる研究が必要であるが,結晶内のGe原子の光励起による大きな変位の方向との関連性が示唆され,光による高速な結晶-アモルファス相転移の機構解明のための重要な知見を提供できる可能性がある.6.まとめ本稿ではXFEL光源の高輝度・短パルス性を活用したポンプ・プローブ超短パルス粉末X線回折測定技術開発謝辞本研究における実験はSACLA利用研究科課題(課題番号2012B8044, 2013A8048, 2013B8053)で行われたものであり,事前準備や実験でご協力いただいた共同研究者およびSACLAスタッフの皆様に御礼申し上げる.また,本研究は文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略課題からの研究資金を受けて実施した研究成果を含んでいる.文献1)T. Ishikawa, H. Aoyagi, T. Asaka, Y. Asano, N. Azumi, T.Bizen, H. Ego, K. Fukami, T. Fukui, Y. Furukawa, S. Goto, H.Hanaki, T. Hara, T. Hasegawa, T. Hatsui, A. Higashiya, T. Hirono,N. Hosoda, M. Ishii, T. Inagaki, Y. Inubushi, T. Itoga, Y. Joti,M. Kago, T. Kameshima, H. Kimura, Y. Kirihara, A. Kiyomichi,T. Kobayashi, C. Kondo, T. Kudo, H. Maesaka, X. M. Marechal,T. Masuda, S. Matsubara, T. Matsumoto, T. Matsushita, S.Matsui, M. Nagasono, N. Nariyama, H. Ohashi, T. Ohata, T.Ohshima, S. Ono, Y. Otake, C. Saji, T. Sakurai, T. Sato, K. Sawada,T. Seike, K. Shirasawa, T. Sugimoto, S. Suzuki, S. Takahashi,H. Takebe, K. Takeshita, K. Tamasaku, H. Tanaka, R. Tanaka,T. Tanaka, T. Togashi, K. Togawa, A. Tokuhisa, H. Tomizawa,K. Tono, S. Wu, M. Yabashi, M. Yamaga, A. Yamashita, K.Yanagida, C. Zhang, T. Shintake, H. Kitamura and N. Kumagai:Nat. Photon. 6, 540 (2012).2)H. Fukuzawa, S. -K. Son, K. Motomura, S. Mondal, K. Nagaya,S. Wada, X. -J. Liu, R. Feifel, T. Tachibana, Y. Ito, M. Kimura,T. Sakai, K. Matsunami, H. Hayashita, J. Kajikawa, P. Johnsson,M. Siano, E. Kukk, B. Rudek, B. Erk, L. Foucar, E. Robert, C.Miron, K. Tono, Y. Inubushi, T. Hatsui, M. Yabashi, M. Yao,R. Santra and K. Ueda: Phys. Rev. Lett. 110, 173005 (2013).3)K. Tamasaku, M. Nagasono, H. Iwayama, E. Shigemasa, Y. Inubushi,T. Tanaka, K. Tono, T. Togashi, T. Sato, T. Katayama, T.Kameshima, T. Hatsui, M. Yabashi and T. Ishikawa: Phys. Rev.Lett. 111, 043001 (2013).4)M. Nakasako, Y. Takayama, T. Oroguchi, Y. Sekiguchi, A.Kobayashi, K. Shirahama, M. Yamamoto, T. Hikima, K. Yonekura,20日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)