ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

ページ
26/92

このページは 日本結晶学会誌Vol56No1 の電子ブックに掲載されている26ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No1

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No1

松原英一郎,徳田一弥,河口智也,山田昇に,試料の位置調整が完全で,励起レーザーのサンプル位置での中心とXFELのサンプル位置での中心が点Oで完全に一致していると仮定する.この場合,試料表面の両光軸の中心Oからd離れた点Pでは,励起レーザーが到達する時間が,到達距離の差を光速cで割ったd sin(α-ω)/cだけ遅れるため,励起時間が遅れる.同様に,点Oと点PでのXFELの到達時間の差は, d cos(ω)/cで与えられ,この時間だけ遅い現象を観測することになる.その結果,すべての遅延時間について,試料表面の中心から離れた点Pでは,次式で与えられる時間だけ遅い現象を観測することになる.d ?cosωsin(α?ω)??τ= ?(1)c?? c c??この時間差は,励起レーザーとXFELとの光軸の差を表す角度αが90°の時に,両方の光の光軸が一致するためゼロとなり,αが減少すると増大する.実際の測定では,XFELのビームサイズが励起レーザーサイズより小さくなるように設定するため,|d|? t X/ 2 sinωである.したがって,光の広がりによる時間分解能は次式のようになる.( )tX?ωα?ω2?τ= ?cos sin ??c ? sinωsinω??(2)例えば, XFELの幅t Xが300μmであり, XFELが試料表面に対して10°で入射し,励起レーザーを試料表面に垂直になるように照射した場合を仮定すると,ω=α=10°となり,式(2)で計算される時間分解能は5.7 psになる.時間分解能を改善するためには,上述したようにω=90°付近で入射し,励起レーザーも同軸入射することがよいが,その場合,測定は透過配置となり,試料自体の吸収のみならず,薄膜試料を用いる場合には基板による吸収の影響なども考慮する必要があり,回折強度を考慮して時間分解能の最適化を行う必要がある.時間分解能を考える上で,もう1つ考えなればならないのが,前述したXFELと励起レーザーの遅延時間の揺らぎである.その値はSACLAでは実効値で100~150 fsとされており, XFELのパルス幅を活かすためには,タイミングモニターを用いて補正する必要がある.米国のLCLSではSiNを用いたタイミングモニターを用いてショットごとの遅延時間のズレを正確に測定し,補正することで高い時間分解能の測定が実現できることが報告されている. 22) SACLAでも,例えば図1に示したような光学配置で, X線を照射すると可視光の透過率が増すGaAsの薄膜を組み合わせ,ジッター補正のためのタイミングモニターの開発が進められており,近いうちに常設されると考えられる.これが実現すれば,透過配置との組み合わせにより,われわれの実験でも,光のパルス幅で決まる時間分解能による非熱的過程のごく初期の構造変化を,より詳細に捉える時間分解測定が行えるようになる.4.光励起超短パルス粉末X線回折のための試料SACLAの硬X線を用いた回折実験の場合, X線の侵入深さは励起光レーザーのそれに比べて圧倒的に大きい.そのため光励起による構造変化をより鮮明に検出するためには,試料厚さを励起光の侵入深さを考慮して調整することが必要である.励起光の侵入深さに比べて,実際の試料厚さが厚い場合には,光励起による構造変化は,励起されていない構造情報に埋もれてしまうため観測しにくくなる.また,試料による光の吸収が試料表面のみに限定される場合には,表面付近で励起された構造の歪みが試料中に伝播する過程を主に観察することになる.そのためわれわれの研究では,構造変化の発生過程をできるだけ明瞭に捉えるために,試料全体を励起光によって励起できる.例えば,試料の裏面での光吸収がe ?1以上になるように,試料厚さを調整している.本稿で紹介するGe 2Sb 2Te 5の場合,励起光に波長が800 nmのレーザーを使用することから,数十nm厚さの多結晶薄膜試料をスパッタ法で作製し利用している.また,多孔性金属錯体などの場合は,励起レーザーに侵入深さを1~100μmオーダーとなるような波長を選択することで,ガラスキャピラリーなどに詰めた状態で,高圧ガス環境下の測定も可能になる.さらに,われわれが多結晶や粉末試料を用いるのは,光励起構造の時間発展過程での結晶方位異方性を観察するためであることは先に述べたとおりであるが,それを確実に実施するためには,試料調整段階で試料の配向がないことも重要である.特に, Ge 2Sb 2Te 5のように薄膜試料の場合には,結晶方位の異方性がでやすいため作製条件の最適化が必要になる.5.相変化記録材料GeSbTeの測定例上で説明してきたように,光励起超短パルス粉末X線回折法を使って,ピコ秒時間領域での光励起後の構造変化を計測できるようになった.この方法を用いた,われわれのGe 2Sb 2Te 5多結晶薄膜の測定結果を紹介する. Ge-Sb-Te系材料は, GeTe-Sb 2Te 3擬二元系材料であり,レーザー照射により結晶相とアモルファス相間で可逆的な高速相転移を示すことから, DVD-RAMやBDといった書換式光ディスクに広く用いられてきたよく知られた材料である.最近では,次世代型不揮発性固体メモリの有力候補として相変化メモリ(P-RAM)への応用が研究されている.本稿で紹介するGe 2Sb 2Te 5の準安定相の結晶構造は,放射光を用いたRietveld解析による結晶構造解析23),24)の結果,図4aに示すようなNaCl型構造をとっており, 2つの面心立方副格子をそれぞれTeとGe/Sb/空孔(=2:2:1)とが占有している.この構造の特徴として,特にGe原子とTe原子の結合距離が2種類あり,これらの結合距離の差によっ18日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)